白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
「おい、早くしろよ。遅えんだよ」
「バッファーも武器拭くの手伝えよ」
「文句ばっかり言ってふんぞり返っているあなたたちこそ、自分で拭きなさいよっ!」
 
 案の定、フラストレーションの溜まったメンバーたちが次第にギクシャクしはじめ、罵声が飛び交うようになってきた。
 
 しかしここでリーダーであるジークさんが檄を飛ばす。
「おいおい、もっと余裕持とうぜ! もうすぐボス部屋だ、もうひと踏ん張り行くぞっ!」
「おうっ!」
 空中分解しかけたパーティーがまたひとつにまとまる。

 あの恵まれた体格と大きな声はパーティーを率いるリーダー然としているんだけど……。
 作戦のマズさに加え、ポーションの空き瓶や使い物にならなくなった拭き取り布を捨てていけと公然と言い放つマナーの悪さ、雑用係たちの疲弊に配慮しない気遣いの無さがいただけない。
 
 見かねたハットリが、ペットのサラちゃんに空き瓶とゴミを拾うよう指示を出している。
 もう、お人好しなんだから。

 結局ボス部屋へ到着するまでに、かなりの時間と体力を要した。
 ここでひと呼吸置くのはいいとして、作戦はこれまでと同じ!という雑な指示にわたしが眉をひそめていると、何を勘違いしたのかジークさんがドヤ顔をして笑った。
 
「どうだ! 順調すぎておもしろくないんだろう? ロイパーティーのリーダーさんよぉ」
 取り巻き連中も一緒になって笑っている。
 
 何が「どうだ!」よ。
 笑っていられるのもいまのうちよ。
 
 雑用係たちが、
「これで『順調すぎる』のか?」
「幹部たちは専属のヒーラーと道具係がついてるから楽でいいよな」
「俺、すでにかなり後悔してるわ。ダンジョンっておもしろくねえな」
と不満げに囁き合っている声は、ジークさんたちの笑い声にかき消された。

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