白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

「協会の口座の方に残高があればペットが自動決済しますので、いま所持金がなくても大丈夫です。ポーションもあります！」
　このひと言が効いたらしく、買い求める人が集まって来た。
　
「あのクマは何だ」
「噂の召喚ペットだろ。いろんな便利機能があるらしい」
　そんなヒソヒソ声も聞こえてくる。
　
「このマーシェスダンジョンでペットを使っているのは、わたしと、今あそこでデモンストレーションしている彼と、ユリウスパーティーのリーダーさんだけです。ペットがいれば大きな荷物なんて不要だし、ほら、一緒に戦ってもくれるんですよ」
　指差す先にいるハットリの肩で、サラちゃんも一緒になってボスに炎を吐いている。
　
　ハットリが炎を付与して振り回している大型クナイとサラちゃんの攻撃で、目視でもハッキリわかるほどボスの側面がどんどん削れていっている。
　レインボーローブのおかげでボスの猛毒攻撃は無効だし、炎を付与しているクナイはベタベタせずに切れ味を維持している。
　
　その様子を見て、限定５着のレインボローブがあっという間に売れた。
　実演販売員として優秀すぎるわね。
　ハットリ、ナイスよ！
　
　回復アイテムやローブを入手して再び元気にボスへと向かっていく者がいる一方で、リタイヤする者も出始めた。
　自分たちの事前準備や作戦が不十分で、分不相応な挑戦だったと気付いたのだろう。
　
　ボス部屋から出たら再入場はできない。
　つまりボス部屋討伐に関しては無報酬でリタイヤとなるけれど、大怪我をする前に潔く撤退するのも大事なことだ。
　
　討伐隊の人数が半分ほどになったところでようやくジークさんが事態に気付いたらしい。
「テメー、よくも邪魔してくれたなっ！」
　顔を真っ赤にして大声を出しながらこちらにやってきた。
　
　その頃にはくまーはもう店じまいし、ハットリも休憩のために戦闘から退いて、わたしとくまーと共に再び入り口の近くで膝を抱えて見学中だった。
　
「なんの話かしら、知らないわ。それよりも早く倒してくれない？　夕食の時間に間に合わないんだけど」
「テメー、ぶっ殺す！」
　
「その威勢のよさであのボスを先に倒していただけないかしら。ひとつアドバイスをするとしたら、もう無理よ。撤退したほうがいいわ」
　
　顔をさらに赤くしたジークさんが何か言いかけたところで「リーダー！」と声が掛かった。
　
　すでに隊列はバラバラで、作戦なんてあったもんじゃない。
　ボスに攻撃し続けているのは一部の手練れのみで、どうしていいかわからない初心者は右往左往している。
　
「ボスが暴走化しました!!」
　
　悲痛な叫びが響いた。