白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
フロアボスの中には、戦闘が一定時間を超えた場合、またはHPをある程度削った段階で暴走化するものがいる。
ロイパーティーがこの巨大スライムと戦った時は、暴走化の兆候が全く見られなかった。
そのことを考えると、このボスの暴走化のトリガーはおそらく戦闘開始からの経過時間だろう。
地下49階の地図のボス情報に書き加えないといけないわね。
時計を確認して、戦闘開始からどれぐらいの時間が経過していたのかをメモした。
暴走化のトリガーがHP残量の場合は、残り僅かで倒せるというサインでもあるため現場の士気がむしろ上がり
「ラストスパートだぜ!」
「一斉に大技を叩きこむぞー!」
と盛り上がるのだが、時間経過がトリガーの場合はその逆だ。
時間がかかりすぎているのは、もう倒せる見込みがないから撤退しなさいというボスからの温情でもある。
暴走化したボスがどうなるのかというと、さらに凶悪になる。
攻撃力、スピード、殲滅力がさらにアップするため、ただでさえ手こずっているこのパーティーの状況では致命的だ。
するとジークさんが「撤退だ! 撤退するぞ!」と大きな声を出した。
ここで撤退指示を出したのは懸命だと思う。
しかし驚いたことに、なんとジークさんは仲間がまだ大勢部屋の中にいるというのに、真っ先にボス部屋から出て行ってしまった。
いくら入り口の近くにいたからって、リーダーがメンバーを見捨てて一番に逃げ出すだなんて完全にリーダー失格だ。
撤退指示を聞いてまだ中に残っていたメンバーが一斉に入り口に向かって駆け寄ってくるが、それを追いかけるように暴走化したボスも毒の雨を降らしながら襲い掛かってくる。
これはマズイ。
ジークさんのクズ!
その怒りを人差し指に込めて立ち上がり、ボスに駆け寄って放った。
「お仕置きよっ!」
ドン! という大きな音と共に放たれた衝撃波は山型のボスの上部を吹っ飛ばし、さらにはその巨体をわずかにノックバックさせた。
ボスが動きを止めたわずかの隙に泥の沼を展開し、さらには土の球体を2つ作って逃げ遅れた初心者たちを包む。
「くまー、ハットリ、あの大きな玉を入り口まで転がして出して」
泥の沼ではたいした足止めにならないことは、ロイパーティーの討伐で経験済みだ。
でもハットリたちが玉を押し出すのを見届けるまでは、何としてでも食い止めなければならない。
こうなったら対ラスボス戦のために猛特訓した大技を披露しなければならないだろう。
マーシェスダンジョンのラスボスをこの大技でかっこよく仕留めたかったのに、そうも言っていられなくなった。
ハットリとくまーが影響を受けない位置まで移動したのを確認したところで背中の大剣を抜いて地面に突き立てる。
ロイさん。どうか力を貸して。
「大地の亀裂!!」
大剣を突き立てた位置からボスに向かって地面に亀裂が入り、地響きと共に深い溝が出現した。
ボスの巨体が横に傾き、ズズっとゆっくりその溝に落ちてゆく。
完全に沈まなくてもいい。
全員が撤退すれば、わたしも逃げればいいだけだ。
あと数秒、お願いだからこのまま沈んで!
どうにか亀裂から脱出しようと巨体を揺らすボスを祈るような気持ちで見つめながら、大剣の束を両手で強く握って魔力を注ぎ続けた。
視界の端に玉を無事に外に出すくまーとハットリが見えて、ホッとしたのがいけなかったのかもしれない。
「危ない! 上!」
そう叫ぶハットリの声が聞こえて、思わず天井を見上げてしまった。
もしも上から何が落下してくるのかを冷静に予想していたのなら、見上げるのではなく首を垂れればよかったのだ。わたしはレインボローブを羽織っていたのだから。
見上げた視線の先にあったのは、先程吹っ飛ばしたボスの上部だった。
意志を持ってわたしを襲ってきたのか、それともたまたまだったのかはわからない。
咄嗟に土壁を展開しようと大剣を放してかざした手のひらからは、ぷしゅっと少量の土埃が出ただけで消えた。
魔力切れ……短時間に大技を使いすぎた。
そう反省した瞬間に、何も覆っていない顔面に大きなゼリーの塊がべちゃっと落ちてきて、後ろ向きにひっくり返り後頭部を強打する。
息が……っ!
顔に張り付いたゼリーを取りたいけれど、魔力切れの脱力感で腕が上がらない。
後頭部の激痛と息苦しさの中、ゼリー越しの歪んだ視界で最後に見たのは、くまーがこちらに駆け寄ってくる姿だった――。
ロイパーティーがこの巨大スライムと戦った時は、暴走化の兆候が全く見られなかった。
そのことを考えると、このボスの暴走化のトリガーはおそらく戦闘開始からの経過時間だろう。
地下49階の地図のボス情報に書き加えないといけないわね。
時計を確認して、戦闘開始からどれぐらいの時間が経過していたのかをメモした。
暴走化のトリガーがHP残量の場合は、残り僅かで倒せるというサインでもあるため現場の士気がむしろ上がり
「ラストスパートだぜ!」
「一斉に大技を叩きこむぞー!」
と盛り上がるのだが、時間経過がトリガーの場合はその逆だ。
時間がかかりすぎているのは、もう倒せる見込みがないから撤退しなさいというボスからの温情でもある。
暴走化したボスがどうなるのかというと、さらに凶悪になる。
攻撃力、スピード、殲滅力がさらにアップするため、ただでさえ手こずっているこのパーティーの状況では致命的だ。
するとジークさんが「撤退だ! 撤退するぞ!」と大きな声を出した。
ここで撤退指示を出したのは懸命だと思う。
しかし驚いたことに、なんとジークさんは仲間がまだ大勢部屋の中にいるというのに、真っ先にボス部屋から出て行ってしまった。
いくら入り口の近くにいたからって、リーダーがメンバーを見捨てて一番に逃げ出すだなんて完全にリーダー失格だ。
撤退指示を聞いてまだ中に残っていたメンバーが一斉に入り口に向かって駆け寄ってくるが、それを追いかけるように暴走化したボスも毒の雨を降らしながら襲い掛かってくる。
これはマズイ。
ジークさんのクズ!
その怒りを人差し指に込めて立ち上がり、ボスに駆け寄って放った。
「お仕置きよっ!」
ドン! という大きな音と共に放たれた衝撃波は山型のボスの上部を吹っ飛ばし、さらにはその巨体をわずかにノックバックさせた。
ボスが動きを止めたわずかの隙に泥の沼を展開し、さらには土の球体を2つ作って逃げ遅れた初心者たちを包む。
「くまー、ハットリ、あの大きな玉を入り口まで転がして出して」
泥の沼ではたいした足止めにならないことは、ロイパーティーの討伐で経験済みだ。
でもハットリたちが玉を押し出すのを見届けるまでは、何としてでも食い止めなければならない。
こうなったら対ラスボス戦のために猛特訓した大技を披露しなければならないだろう。
マーシェスダンジョンのラスボスをこの大技でかっこよく仕留めたかったのに、そうも言っていられなくなった。
ハットリとくまーが影響を受けない位置まで移動したのを確認したところで背中の大剣を抜いて地面に突き立てる。
ロイさん。どうか力を貸して。
「大地の亀裂!!」
大剣を突き立てた位置からボスに向かって地面に亀裂が入り、地響きと共に深い溝が出現した。
ボスの巨体が横に傾き、ズズっとゆっくりその溝に落ちてゆく。
完全に沈まなくてもいい。
全員が撤退すれば、わたしも逃げればいいだけだ。
あと数秒、お願いだからこのまま沈んで!
どうにか亀裂から脱出しようと巨体を揺らすボスを祈るような気持ちで見つめながら、大剣の束を両手で強く握って魔力を注ぎ続けた。
視界の端に玉を無事に外に出すくまーとハットリが見えて、ホッとしたのがいけなかったのかもしれない。
「危ない! 上!」
そう叫ぶハットリの声が聞こえて、思わず天井を見上げてしまった。
もしも上から何が落下してくるのかを冷静に予想していたのなら、見上げるのではなく首を垂れればよかったのだ。わたしはレインボローブを羽織っていたのだから。
見上げた視線の先にあったのは、先程吹っ飛ばしたボスの上部だった。
意志を持ってわたしを襲ってきたのか、それともたまたまだったのかはわからない。
咄嗟に土壁を展開しようと大剣を放してかざした手のひらからは、ぷしゅっと少量の土埃が出ただけで消えた。
魔力切れ……短時間に大技を使いすぎた。
そう反省した瞬間に、何も覆っていない顔面に大きなゼリーの塊がべちゃっと落ちてきて、後ろ向きにひっくり返り後頭部を強打する。
息が……っ!
顔に張り付いたゼリーを取りたいけれど、魔力切れの脱力感で腕が上がらない。
後頭部の激痛と息苦しさの中、ゼリー越しの歪んだ視界で最後に見たのは、くまーがこちらに駆け寄ってくる姿だった――。