白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 これでまた会合を招集することになるだろう。
 ジークは今回の件についてどう思っているだろうか。
 
 曲がりなりにもパーティーのリーダーとして数年間活動しているのだ、その矜持があればもう一度自分たちの力で挑戦し直すのが筋だと思う。
 しかし下衆なジークのことだから、パーティーでクリアしたのは間違いないのだからと正当性を主張する可能性も大いにある。

 もしもそれで最下層の討伐隊のリーダーになったとしても、ユリウスやトミー、そしてロイパーティーの面々は参加しないだろう。
 今回のジークパーティーの無謀な挑戦はすでにあの街で大きな話題になっているに違いない。
 
 ヴィーが逃げ遅れた冒険者たちを助けるためにひとりでボスに立ちはだかったのは立派だが、あまり無茶をしないでくれと言いたい。
 いや。自分がそばにいればこんなことにはならなかったはずだ。

 どうして……やり場のない怒りはジークに対してでなく、自分自身に対してのものだろう。
 大きなため息を漏らしながらうなだれる。

 そのとき突然、ヴィーがガバっと上半身を起こした。
「うわっ!」
 驚いて妙な声が出る。
 
「ヴィー! 大丈夫か!?」
 そんなに勢いよく体を起こしたらまた脳震盪でも起こすんじゃないかと心配したせいだろうか。
 咄嗟に、いつもの「ヴィクトリア」ではなく「ヴィー」と呼んでしまった。
 
「ロイさん?」
 呼ばれて体が先に反応した。
 
 ぎゅっと強くヴィーを抱きしめる。
 目を覚ましてくれた安堵と、ようやくロイの正体に気付いてくれた喜びに胸が高鳴った。
 
「ああそうだ、俺だよ、ヴィー」

 目がよく見えないと訴えるヴィーの顔を覗き込むと、カピカピになったゼリーがべったりと張り付いているではないか。
 これは無理に剥がさないほうがいい。
 
 すぐにぬるま湯とガーゼをと思ったが、ヴィーに引き止められてしまった。
 しかも微妙に会話が噛み合わない。

 結婚したのだと告げられてようやく理解した。

 声でロイだと思っただけで、まだ気付いていなかったのか――。
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