白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 冒険者協会の建物の中に入って一番にしたかったことはペットのくまーの召喚だった。

 会長室へ向かう旦那様と別れて、わたしはエルさんたちとともに会議室へ向かった。
 ペットはダンジョンと協会の敷地内でのみ召喚できる。
 ダンジョン地下49階のボススライムの最後の悪あがきで窒息し、意識を失う直前に見たのはくまーが必死にわたしの方へと駆け寄ってくる姿だった。
 ありがとうと、わたしは無事だということを伝えたい。

 会議室の手前の廊下で召喚すると、くまーはわたしを見るなり大喜びして緑色のもふもふな体で抱きしめてくれた。

「くまー、心配かけてごめんなさい。あの時わたしの顔に落ちてきたゼリーを取ってくれたんでしょう? ありがとう」

 あの時の状況をハットリに聞いたという旦那様によれば、わたしの顔面を覆う大量のゼリーをくまーとハットリで懸命に除去している途中でボスの討伐完了となったらしい。
 後でハットリにもお礼を言わないといけない。
 
 エルさんは召喚ペットを「高度なマジックアイテム」と言っているけれど、こんなに感情表現豊かな道具なんてあるんだろうかと思う。
 その証拠に、くまーは廊下の向こうから歩いて来たジークさんを見つけると憤怒の表情で怒り出したのだ。
 そして止める間もなく、ジークさんとの距離を詰めると見事な左フックをかましてジークさんを吹っ飛ばした。

「さすがヴィーのペットだね! よくやった」
 エルさんは手を叩いて喜んでいるけれど、協会内での冒険者同士のいざこざは旦那様が許さないはずだ。

 見つかったら氷漬けにされてしまうわっ!

 しかもタイミングの悪いことにそこへ旦那様がやって来て、足元に転がるジークさんを見下ろしている。

 廊下でひっくり返っているジークさんと尚もファイティングポーズをとり続けるくまー。
 何が起きたかは一目瞭然のはずだが、旦那様は無表情でその横を通り過ぎた。

「会議を始めます。みなさんどうぞ中へ」
 冷ややかな声でそう告げられただけでお咎めなしとなった。
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