白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
 会議室に入ると、待ち構えていたようにユリウスさんにハグされた。
「ヴィーちゃん、今日は若奥様みたいな服装なんだね。それもよく似合っていてかわいいよ。それよりも心配していたんだよ、大怪我を負ったと聞いたから。元気そうでよかった」

 5日前のあの出来事は街で大きな噂となっていたようだ。
 その内容の大半がジークさんを酷評するもので、長く彼の腹心を務めていた取り巻きの人たちまでジークさんから距離を置くようになったらしい。
 無謀な挑戦の果てに仲間を見捨てて逃げたリーダーを見限ったのか、自分まで後ろ指を指されるのが嫌で離れるふりをしているだけなのかは知らないけれど。
 
「ユリウスさん、ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」
 室内の温度が急に下がった気がして慌ててユリウスさんから離れる。

 座長席を見ると、普段よりも冷ややかなアイスブルーの瞳がこちらに向けられていて戦々恐々とした。
 ちなみにわたしが協会長の妻であることは伏せる方向で旦那様と申し合わせている。
 協会職員として親族でも他人と同等の扱いをするっていうことなんだから、この冷たい視線は妻との距離が近すぎる男への嫉妬ではなく、単に早く会議を始めたいのだがという非難だと思うことにする。

 エルさんと並んで椅子に座り、その後ろにトールさんとくまーが立った。
 ジークさんへの牽制のために敢えてくまーの姿は見せたままにしたのだが、それは不要だった。

 驚いたことに、会議が始まってすぐにジークさんのほうから頭を下げてきたのだ。

「申し訳なかった。あんたの言う通り俺たちだけじゃ無理だった。意地を張って無茶なことをしたと今は反省してる。それと、みっともなくすぐに逃げ出した俺の代わりに仲間を助けてくれてありがとうございました」

 ジークさんの真面目な表情や声色、深々と頭を下げる様子からして、口先だけのパーフォーマンスではなさそうだ。
 周囲から総スカンをくらったことが相当こたえたのだろう。
 それにボススライムに苦戦した挙句、狂暴化に恐れをなして真っ先に逃げ出したことを自分なりに反省しているのならそれでいい。

 旦那様の事務的な声が響く。
「地下49階をクリアしたら、ジークさんに討伐隊のリーダーを任せることになっている件に関してはどうしますか?」

「お断りします! 俺には無理です!」
 ジークさんが首を横に振る。

 ここでもしジークさんが、約束通り俺がリーダーになると不遜な宣言をしたり、今度こそきちんと率いてみせるからリーダーをやらせてくれと懇願してきたら、ここにいる全員が反対しただろう。
 リベンジの機会を与えることも大事だが、この場面ではない。
 求心力と信用が失墜した今の彼にラスボス戦のリーダーは務まらない。
 
「では、リーダーは当初の予定通りロイパーティーのヴィーさんということでよろしいですね?」

 円卓に座る出席者をぐるっと見回しながら旦那様が言うと全員が拍手をし、わたしは立ち上がって頭を下げた。

「よろしくお願いします。力を合わせてマーシェスダンジョン踏破を達成しましょう」
 笑顔ではなく、唇を引き結んで力強く宣言する。
 
 義父を元気づけるために、そしてロイさんが安心して天に召されてくれるように、何としてでもラスボス討伐を成功させようと心に誓ったのだった。

 
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