一ノ瀬くんの恋愛事情。
一ノ瀬くん、話しかけないで
学校に行くのが怖くなるなんて生まれて初めてだった。
目を閉じても閉じなくても、昨日のことが脳内で再生される。
──『水無瀬さん、おれと付き合ってください』
……あれは夢だったんじゃないだろうか。
そんな都合のいいことを考えたくなるけれど、現実は変わらない。
私、水無瀬葵は一ノ瀬千景くんに告白されたんだ。
制服に腕を通すのも億劫だったけれど学校に行かないわけにもいかず、わたしは身支度を済ませ一階に降りる。
「あ、葵。おはよう」
台所で朝食とお弁当を作っていたお母さんが私に声をかけた。
「……おはよう」
「あら、どうしたの。いつもより元気がないじゃない」
お母さんはすぐに私の異変に気づいたのか、心配した様子でそう言う。
「そ、そんなことないよ。元気元気!」
私はとっさに取り繕って声を張った。
お母さんはまだ心配そうにしていたけれど、私の言葉に頷いて朝食作りを再開した。