一ノ瀬くんの恋愛事情。
朝ごはんを食べて、歯磨きをしてから家を出た。
最寄り駅から3駅ほど行ったところに私の通う私立城聖学園がある。
ここはご令嬢ご令息が通っているわけではなくて、ある程度の富裕層の家の子たちが通っている学園だ。
「おはよー葵」
教室に入ると、長い髪を三つ編みにしたおさげの似合う紗絵ちゃんが声をかけてくれた。
私たちは小学校から仲の良い大親友で、いつも一緒にいる。
「おはよう紗絵ちゃん」
丸めがねの奥から私を見つめる紗絵ちゃんの目はいつも優しい色をしている。
席が隣同士の私たちは、いつも先生が来るまで2人で話をする。
紗絵ちゃんの話を聞きながら、昨日のことを打ち明けようか迷う。
とにかく誰かに聞いてほしくて、1人で抱え込むのは矢私にとってあまりに苦しい。
「さ、紗絵ちゃん。ちょっとね、伝えたいことがあるんだけど……」
情けないくらい声が裏返ってしまった。
そんな私をくすくす笑いながら、紗絵ちゃんが「なになに?」と興味津々に訊いてくる。