吾輩は幽霊である。
「おいおい、お前は何をしておるのじゃ?」 聞いているのだが男は何も答えない。
振り向きすらもしないのだからだんだんとイライラしてくるんじゃが、、、。
そいつの肩越しに伺ってみると、、、。 なあんだ、シケモクを懸命に吹かしておったのか。
何だか覗いてみるだけ損をした気分じゃ。 幽霊がこんなんでどうするな?
田舎の夜中は本当に気味が悪い。 吾輩でもそうなのだから人間どもは耐えられんじゃろう。
サワサワと葉っぱが擦れ合う音がする。 一つ目小僧でも出てきそうじゃな。
月夜の晩に鶴と亀が滑って転んでケガをするんじゃ。 そしたら何かが見える。
それはいったい何じゃろうなあ? 見てみたいとも思わんのだが、、、。
吾輩が生きておった頃、そりゃあもう大変だったよ。 毎日が野良仕事じゃった。
明けても暮れても田んぼしか用事が無いんじゃ。 それくらいに必死だったのじゃ。
たまに休みをと思うがな、手を抜けば野菜だって何だって育ちが悪くなる。 お子と同じじゃよ。
お子も声を掛けて教えることを教えて自分でやれるようになるまで見守るんじゃ。 それが出来んとお子は道を外れるでなあ。
吾輩も子の時は喧しく言われたもんじゃ。 人様に迷惑だけは掛けたらあかんぜよ。
挨拶と礼儀だけは忘れたらいかん。 礼儀を忘れたら人間じゃなくなるんじゃ。
「じゃあ礼儀を忘れたら妖怪にでもなるのかのう?」 そう聞いたら分からんと言われた。
そりゃあそうじゃ。 人間様にそこまでは分からんわ。
菓子屋を出てフラフラと歩いていく。 何処に行く当ても無く呼んでくれる人も無い。
町の中をただただフラフラと歩いていく。 それだけでも時間は流れていく。
当たり前の話じゃが時間が止まることは無い。
止まったらどえらいことになるらしいからのう。 神様だってそれは望んでおらんじゃろう。
町外れの橋が見えてきた。 ここは昔から飛び降りる女が多いと噂されている橋じゃ。
袂橋という橋じゃな。 正式には田本橋というのじゃが、、、。
なんでも袂を分かった女が見せ付けるために裸になって飛び降りたのが名前の由来だそうな、、、。
飛び降りた女の気持ちも分からんじゃないが人騒がせなことはやらんでほしいなあ。 何ゆえに裸になったんじゃ?
思い詰めたことでも有ったのかのう? それとも?
思いを巡らせながら橋を渡る。 川を覗き込んでいる女が居る。 飛び込むのかと思って見ていたらその女も幽霊じゃった。
見た所、若い女じゃ。 恋男に遊ばれたんじゃろうなあ。
何気に女を見ていると手招きをする。 行ってみたらば悲しそうな顔で吾輩を見たんじゃよ。
「どうしたのか?」と聞いたら「連れだった男が来ない。」って言う。 諦めるように説得したのじゃが「死んでも諦めない。」と言うんじゃね。
幽霊でも諦めきれんことが有るんじゃのう。 吾輩にはその一つも無いんじゃが、、、。
橋を渡り終えると古い小学校が見えてくる。 今は使われておらん廃校舎のようじゃな。
その周りには藪が広がっていて薄気味悪さを醸しておる。 こんな場所には居たくないもんじゃ。
とはいえ何かと興味をそそる場所でもある。 ここには心霊現象の噂が有るでなあ。
って幽霊のわしが言うのも変なんじゃが。
そう、あれは40年前の冬の日じゃった。 既にこの学校は廃校になっておってな、村の人たちも後をどうするか議論億爆の最中じゃった。
冬の寒い夜、この近くを通った男が妙なことに気付いた。 校門が開いておったんじゃ。
廃校とはいえ校門が開いておることはまあ不思議ではない。 しかしその時は夜だったんじゃ。
それでな、その男は恐る恐る懐中電灯を手に中に入っていった。 そして職員室まで来た時じゃった。
その前に女子たちが座らされておるのを見た。 「こんな所で何をしているんだ?」と声を掛けたが返事は無い。
女子たちは5人ほどだったそうじゃ。 男は近付いてもう一度声を掛けた。
だが返事は無い。 不思議に思って一人を立たせてみた。
ところがじゃ、立たないんじゃよ。 それどころか動かない。
変に思った男は皆を調べてみた。 するとな、皆死んでおったんじゃ。
慌てた男は近くの駐在さんを呼んだ。 この事件は村で大騒ぎになったね。
男が殺したんじゃないかって言う人も居ったんじゃが、取り敢えず次の日から捜査は始まった。
何しろ5人も女子が殺されておったもんだから警察も大慌てじゃ。 一人ずつ行方を調べていったんじゃな。
ところが5人とも接点が無くて分からんのじゃ。 隣町の女子も居ったでな。
あっちこっち調べて回ったがこれという決め手が無い。 焦ったんじゃなあ。
警察は最初に見付けた男を捕まえてしもうたんじゃ。 これにはまたまた村人たちは驚いた。
正直者だった男が逮捕されたもんじゃからな。 抗議した人も居ったらしいが聞き入れられることは無かったんじゃ。
5年が過ぎて男は処刑されてしもうた。 その時になってやっと「俺がやった。」と言う男が出てきた。
村人たちは男を取り囲んで攻め続けたんじゃが村長は「これ以上やるとあんたらが危ないことになるぞ。」と言って辞めさせたんじゃ。
以来、この廃校舎は手を付けられることも無いままに放置されることになったんじゃ。
今でもここで殺された女子たちがさ迷っているという。 わしは幽霊じゃから怖くもないがのう。
そう思いながら校舎の前を歩いてみる。 「何も無いではないか。」
そう思いつつ裏へ回ろうとした時じゃった。 何かが頭の上からポトポト垂れてくるんじゃ。
(何じゃろう?) そう思って辺りを見回していたら、、、。
「ギャーーーーーーーー!」 吾輩は思わずひっくり返ってしもうた。
水が垂れてくるなと思って上を見上げたら若い女がぶら下がっておったんじゃ。 驚かぬはずじゃったのに、、、。
しかもその女は腰巻すら身に付けてはおらんでな、、、。 それはいったいどういうことぞ?
思わず泡を吹いた吾輩はしばらく立てんでおった。 気を取り直して見てみるとじゃなあ、その女は死んでおったんじゃ。
(何でこんな所で首を吊るんじゃろうなあ?」 不思議に思うたが死んでしもうたもんはしょうがない。
そのうちに誰かが見付けに来るじゃろう。 そう思うたが誰も来ん。 しょうがないから吾輩が花を手向けることにした。
それにしても校舎の脇で素っ裸になって首を吊るとはいかがなもんかのう? 人間どもは何とも思わんのか?
そう思った吾輩は近くに転がっていた石を通行人目掛けて投げたんじゃよ。 「いてえなあ! 何をしやがるんだい!」
40そこそこの農民らしい男が振り向いた。 その目の先に女がぶら下がっておったもんじゃから男は目を大きく見開いて固まってしもた。
そこへそいつの仲間と思しき男が二人飛んできた。 「何してんだよ?」
「あれを見ろ。 あれを、、、。」 男は震えながら女を指差すのじゃ。
他にもこの辺の住民たちが集まってきて、ワイヤワイヤと大騒ぎを始めた。 そりゃあそうなるわな。
何も起きんようなこの田舎で女が首を吊っておるなんて、、、。
そこへドヤドヤット警察もやってきた。 彼らは白い布を広げると女を包んで運んで行きおった。
(これで何とかなるじゃろう。) 一度は腰を抜かした吾輩じゃが久しぶりに墓場の方に帰ることにしようかの。
振り向きすらもしないのだからだんだんとイライラしてくるんじゃが、、、。
そいつの肩越しに伺ってみると、、、。 なあんだ、シケモクを懸命に吹かしておったのか。
何だか覗いてみるだけ損をした気分じゃ。 幽霊がこんなんでどうするな?
田舎の夜中は本当に気味が悪い。 吾輩でもそうなのだから人間どもは耐えられんじゃろう。
サワサワと葉っぱが擦れ合う音がする。 一つ目小僧でも出てきそうじゃな。
月夜の晩に鶴と亀が滑って転んでケガをするんじゃ。 そしたら何かが見える。
それはいったい何じゃろうなあ? 見てみたいとも思わんのだが、、、。
吾輩が生きておった頃、そりゃあもう大変だったよ。 毎日が野良仕事じゃった。
明けても暮れても田んぼしか用事が無いんじゃ。 それくらいに必死だったのじゃ。
たまに休みをと思うがな、手を抜けば野菜だって何だって育ちが悪くなる。 お子と同じじゃよ。
お子も声を掛けて教えることを教えて自分でやれるようになるまで見守るんじゃ。 それが出来んとお子は道を外れるでなあ。
吾輩も子の時は喧しく言われたもんじゃ。 人様に迷惑だけは掛けたらあかんぜよ。
挨拶と礼儀だけは忘れたらいかん。 礼儀を忘れたら人間じゃなくなるんじゃ。
「じゃあ礼儀を忘れたら妖怪にでもなるのかのう?」 そう聞いたら分からんと言われた。
そりゃあそうじゃ。 人間様にそこまでは分からんわ。
菓子屋を出てフラフラと歩いていく。 何処に行く当ても無く呼んでくれる人も無い。
町の中をただただフラフラと歩いていく。 それだけでも時間は流れていく。
当たり前の話じゃが時間が止まることは無い。
止まったらどえらいことになるらしいからのう。 神様だってそれは望んでおらんじゃろう。
町外れの橋が見えてきた。 ここは昔から飛び降りる女が多いと噂されている橋じゃ。
袂橋という橋じゃな。 正式には田本橋というのじゃが、、、。
なんでも袂を分かった女が見せ付けるために裸になって飛び降りたのが名前の由来だそうな、、、。
飛び降りた女の気持ちも分からんじゃないが人騒がせなことはやらんでほしいなあ。 何ゆえに裸になったんじゃ?
思い詰めたことでも有ったのかのう? それとも?
思いを巡らせながら橋を渡る。 川を覗き込んでいる女が居る。 飛び込むのかと思って見ていたらその女も幽霊じゃった。
見た所、若い女じゃ。 恋男に遊ばれたんじゃろうなあ。
何気に女を見ていると手招きをする。 行ってみたらば悲しそうな顔で吾輩を見たんじゃよ。
「どうしたのか?」と聞いたら「連れだった男が来ない。」って言う。 諦めるように説得したのじゃが「死んでも諦めない。」と言うんじゃね。
幽霊でも諦めきれんことが有るんじゃのう。 吾輩にはその一つも無いんじゃが、、、。
橋を渡り終えると古い小学校が見えてくる。 今は使われておらん廃校舎のようじゃな。
その周りには藪が広がっていて薄気味悪さを醸しておる。 こんな場所には居たくないもんじゃ。
とはいえ何かと興味をそそる場所でもある。 ここには心霊現象の噂が有るでなあ。
って幽霊のわしが言うのも変なんじゃが。
そう、あれは40年前の冬の日じゃった。 既にこの学校は廃校になっておってな、村の人たちも後をどうするか議論億爆の最中じゃった。
冬の寒い夜、この近くを通った男が妙なことに気付いた。 校門が開いておったんじゃ。
廃校とはいえ校門が開いておることはまあ不思議ではない。 しかしその時は夜だったんじゃ。
それでな、その男は恐る恐る懐中電灯を手に中に入っていった。 そして職員室まで来た時じゃった。
その前に女子たちが座らされておるのを見た。 「こんな所で何をしているんだ?」と声を掛けたが返事は無い。
女子たちは5人ほどだったそうじゃ。 男は近付いてもう一度声を掛けた。
だが返事は無い。 不思議に思って一人を立たせてみた。
ところがじゃ、立たないんじゃよ。 それどころか動かない。
変に思った男は皆を調べてみた。 するとな、皆死んでおったんじゃ。
慌てた男は近くの駐在さんを呼んだ。 この事件は村で大騒ぎになったね。
男が殺したんじゃないかって言う人も居ったんじゃが、取り敢えず次の日から捜査は始まった。
何しろ5人も女子が殺されておったもんだから警察も大慌てじゃ。 一人ずつ行方を調べていったんじゃな。
ところが5人とも接点が無くて分からんのじゃ。 隣町の女子も居ったでな。
あっちこっち調べて回ったがこれという決め手が無い。 焦ったんじゃなあ。
警察は最初に見付けた男を捕まえてしもうたんじゃ。 これにはまたまた村人たちは驚いた。
正直者だった男が逮捕されたもんじゃからな。 抗議した人も居ったらしいが聞き入れられることは無かったんじゃ。
5年が過ぎて男は処刑されてしもうた。 その時になってやっと「俺がやった。」と言う男が出てきた。
村人たちは男を取り囲んで攻め続けたんじゃが村長は「これ以上やるとあんたらが危ないことになるぞ。」と言って辞めさせたんじゃ。
以来、この廃校舎は手を付けられることも無いままに放置されることになったんじゃ。
今でもここで殺された女子たちがさ迷っているという。 わしは幽霊じゃから怖くもないがのう。
そう思いながら校舎の前を歩いてみる。 「何も無いではないか。」
そう思いつつ裏へ回ろうとした時じゃった。 何かが頭の上からポトポト垂れてくるんじゃ。
(何じゃろう?) そう思って辺りを見回していたら、、、。
「ギャーーーーーーーー!」 吾輩は思わずひっくり返ってしもうた。
水が垂れてくるなと思って上を見上げたら若い女がぶら下がっておったんじゃ。 驚かぬはずじゃったのに、、、。
しかもその女は腰巻すら身に付けてはおらんでな、、、。 それはいったいどういうことぞ?
思わず泡を吹いた吾輩はしばらく立てんでおった。 気を取り直して見てみるとじゃなあ、その女は死んでおったんじゃ。
(何でこんな所で首を吊るんじゃろうなあ?」 不思議に思うたが死んでしもうたもんはしょうがない。
そのうちに誰かが見付けに来るじゃろう。 そう思うたが誰も来ん。 しょうがないから吾輩が花を手向けることにした。
それにしても校舎の脇で素っ裸になって首を吊るとはいかがなもんかのう? 人間どもは何とも思わんのか?
そう思った吾輩は近くに転がっていた石を通行人目掛けて投げたんじゃよ。 「いてえなあ! 何をしやがるんだい!」
40そこそこの農民らしい男が振り向いた。 その目の先に女がぶら下がっておったもんじゃから男は目を大きく見開いて固まってしもた。
そこへそいつの仲間と思しき男が二人飛んできた。 「何してんだよ?」
「あれを見ろ。 あれを、、、。」 男は震えながら女を指差すのじゃ。
他にもこの辺の住民たちが集まってきて、ワイヤワイヤと大騒ぎを始めた。 そりゃあそうなるわな。
何も起きんようなこの田舎で女が首を吊っておるなんて、、、。
そこへドヤドヤット警察もやってきた。 彼らは白い布を広げると女を包んで運んで行きおった。
(これで何とかなるじゃろう。) 一度は腰を抜かした吾輩じゃが久しぶりに墓場の方に帰ることにしようかの。