今夜の月は眠らない。
「何よ、わたしの胸がないのなんて最初から分かってたことじゃない!」
そう大きな独り言を溢し、わたしは飲めないウイスキーを一気に飲み干した。
「マスター!もう一杯!」
グラスを持ち上げわたしがそう言うと、マスターは苦笑いを浮かべ「もうそろそろやめといたら?」と言う。
「もう、飲まないとやってらんないの!さっきのと同じやつ!」
わたしの言葉にマスターは仕方なくウイスキーを注ぐ。
わたしはついさっき、付き合い始めて2年目になる彼氏、山口瑛太にフラレた。
偶然にも瑛太が知らない女と仲睦まじく手を繋ぎながら歩いている姿を目撃し、帰ってから問い詰めたところあっさり白状し、浮気の理由を訊くと「俺は胸の大きい女が好きなんだ!」と言われてしまったのだ。
その浮気理由にわたしは、あまりのショックに何も言い返せなかった。
わたしはトリプルがつく程のAカップで、自分の中で一番のコンプレックスだった。
自分のコンプレックスが浮気原因。
わたしだって、今まで努力してきた。
胸が少しでも大きくなるように食べ物に気をつけたり、マッサージもしたし、育乳用のナイトブラも買ってつけてみたりした。
けど、どれも効果はなかった。
これ以上、わたしにどうしろって言うの?
確かにここ半年、瑛太とはレスだったけど、仲良くやれていると思っていた。
それがそんな理由で裏切られて、わたしは何て言い返せばよかったんだろう。
わたしは涙を流しながら、大してお酒も飲めないくせに再びウイスキーを一気飲みしたのだった。
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