エリート海上自衛官の最上愛
「本当に大丈夫でした。あの日は、晃輝さんのお仕事を知るのが楽しくて、すごいお仕事をされているって知って……晃輝さんの姿が……」

 言いながら芽衣の視界がじわりと滲む。
 ——本当に、なんてバカなんだろう。

 トラウマを抱えているくせに、自分からそのトラウマに近寄るようなことをするなんて。でもそうせずにいられないほど、彼に強く惹かれたのだ。

 それほど大好きな人と心を通わせることができたのに、それ以上の未来を描けないのがつらかった。

 こんなことならば、彼の気持ちを知ることなくただの憧れで終わらせたかったと思うくらいだった。

 膝の上で握り締めた手に、ぽたりぽたりと雫が落ちる。ふたりの関係を終わらせようと言ったのは芽衣だ。泣く資格なんかないと思うのにどうしても止められなかった。

「ごめんなさい……私……」

 晃輝が立ち上がり、芽衣のところへやってくる。床に膝をついて芽衣の両腕を包むように優しく掴んだ。

「芽衣は悪くない。むしろ俺が仕事のことを説明する時に、帰りを待つ家族の気持ちについても説明するべきだった。……だが、そうすれば……」

 芽衣はその時点で思いとどまり、ふたりが心を通い合わせることもなかった。

 どちらにしても、ふたりに未来はなかったということだ。それを改めて実感して、芽衣の胸は悲しみでいっぱいになった。

 こんなに彼を好きなのに。

 こんな気持ちを抱いたのは、人生ではじめてのことだったのに。

 彼を想えば想うほど、一緒にはいられなくなる。

「っ……!」

 涙は後から後から流れ出る。

 やっぱりメッセージで終わらせるべきだった。

 それで彼が芽衣を軽蔑するのならその方がいいじゃないか。

 声を殺して泣き続ける芽衣の濡れた頬を大きな手が包み込んだ。

 低くて温かな声音が芽衣を呼ぶ。

「芽衣、メッセージに書かれてあった芽衣の気持ちは変わらない?」

< 100 / 182 >

この作品をシェア

pagetop