エリート海上自衛官の最上愛
 付き合うのはなしにしてほしいというメッセージだ。その問いかけに、芽衣は泣きながら頷いた。

「——ならそうしよう」

 穏やかな声音で彼が言う。

 その瞬間、世界のすべてが終わったように感じて、芽衣は目を閉じた。

 彼と別れたからといって、この気持ちは変わらないのはわかっている。

 付き合っているかどうかは関係なく彼への気持ちが変わらない限り、船上の彼を心配して胸が潰れそうになるのは同じなのだ。

 それはたとえこの街を去ったとしてもついて回るのだろう。そんな気持ちを抱えたまま、ひとりで生きてゆく。これから先の人生が真っ黒に感じるくらいだった。

 晃樹が膝に置いた芽衣の手に自分の手を重ねた。

「だけどこれは、芽衣の心の負担を軽くするためにそうするだけ。これからも俺は、芽衣と俺がふたりでいられる道を探す。俺は決して君を諦めない」

 意外な言葉に、驚いて目を開くと、晃輝が燃えるような眼差しで芽衣を見ていた。

「晃輝さん……?」

「芽衣、愛してるよ。俺のこの気持ちは一生変わらない。君のメッセージを見てから今日までの数日で改めて思い知ったよ。俺は、これから先もずっと芽衣と一緒に生きていきたい。あの日、あの公園で付き合ってほしいと言ったけど、本当は結婚してほしいと言いたかったくらいなんだ」

 その言葉に驚きながら、どこかで芽衣は納得する。誠実で実直な彼ならば、付き合う時にそこまで考えているのは当然のようにも思えた。

 自分ではない他の誰かになりたかった。

 芽衣だって、彼とともに生きていきたい。はじめからそんな強い想いだった。今ここですべての記憶を消し去って、なにも考えることなく彼だけのことを愛していたいとすら思う。

「どれだけ時間がかかっても、一生かかってもいいから、俺はふたりで生きていける道を探す。それまで芽衣が別れていたいというならば、俺は形はなんだっていい」

「一生ってそんな……。そういうわけにはいきません。だって晃輝さんなら、ほかにも……」

 彼ならば、もっと心を強く持って彼を支えたいという人がいるはずだ。これから組織の幹部としてさらに厳しい道をゆく彼には、芽衣とのことはただの負担にしかならない。

 つらくて最後まで言えなかったが、十分に意図は伝わったようだ。晃輝がきっぱりと首を横に振る。

「俺はもともと、一生独身でいるつもりだった。芽衣でなければ結婚自体したいとは思わない」

 それでも芽衣は納得できなかった。だとしても、今彼が言ったことに意味があるとは思えなかったからだ。

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