エリート海上自衛官の最上愛
 友達とであれば、買い物をしたり食べ歩きをしたりといろいろ思いつくけれど、それがデートにふさわしい場所なのかどうかわからない。

 そもそも一日中彼と一緒に過ごすのだと想像するだけで心がふわふわとして、場所なんてどこでもいいように思えた。

「そうか」

 晃輝が少し困ったような表情になった。

「こういう時、なら俺が決めると言えたらいいんだけど、正直言って俺も君をどこに連れていけば喜んでもらえるかわからないな」

『わからない』という言葉を芽衣は少し意外に思う。彼にできないことなどなさそうに思えるからだ。

「晃輝さんでも困ることがあるんですね」

 思わずそう呟くと、晃輝が眉を上げた。

「そりゃ、あるよ。芽衣は俺をAIかなにかと思ってる?」

「でも皆さんが晃輝さんは海上自衛隊の中でも成績優秀な幹部候補だっておっしゃってたから」

「仕事とプラーベートは別だろう」

 そう言って、晃輝はふっと笑う。

 その笑顔と、少しラフに整えられた髪。いつもよりどこか砕けた口調の彼に、芽衣はドキドキが止まらなくなっていく。なんだか急に恥ずかしくなって、目を伏せた。

「でもいつも落ち着いていてなんでもできるし……」

「落ち着いてる?」

 晃輝が首を傾げて、芽衣の膝の上の手を取り、自分の胸にあてた。

「今、すごく緊張してるんだけど」

 自分の鼓動が早くなっているということを芽衣におしえようとしているのだ。Tシャツ越しに感じる彼の体温に、芽衣の鼓動は飛び跳ねた。

「わかる?」

「わっ……かりません……!」

 真っ赤になって芽衣は答えた。

 彼の鼓動よりも、自分の心臓の方がドキドキしてまったくなにもわからない。

「そう? とにかく期待に添えなくて申し訳ないけど、俺は女性と出かけることに慣れているわけではない。今まで防衛大に入ってからはずっと、訓練と勉強ばかりしてきたから」

 そこまで言って頭をかいた。

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