エリート海上自衛官の最上愛

シーワールド

 晃輝が運転する車でシーワールドへつくと、すでに駐車場はたくさんの客で賑わっていた。

 連日暑い日が続いているけれど、今日は少しだけ曇っているからか、外にいられないほどではない。

 海からの風に混じる潮の香りを感じながら、芽衣と晃輝はシーワールドのメインゲートを目指すことにする。

「行こうか」

 晃輝が芽衣の手を取り歩きだす?

「小学校の頃に遠足で来たきりだな」

 上機嫌で晃輝は言うが、芽衣はそれどころではなかった。あまりにも自然に繋がれた手を目をパチパチさせて見る。

「ゲートはあっちか。芽衣、約束を忘れないように。つらいと感じたらすぐに言うんだ。せっかく来たのに、とかお金を払ったばかりなのにとか、そういうことは一切考えなくていいからな」

 最終確認のごとく晃輝が念を押している。けれどやっぱり芽衣はそれどころではなかった。

「芽衣?」

 名前を呼ばれて、ハッとする。

「は、はい。あのー、だけど、その……それよりも」

 モゴモゴ言って、繋いだ手に視線を送った。

 その視線に、晃輝は芽衣がなにを言いたいのか気がついたようだ。眉を上げて肩をすくめた。

「はぐれないようにだよ。思ったよりも人が多い。……嫌? ならやめるけど」

 嫌ならやめると彼は言うが、芽衣が嫌だと思うはずがないことはお見通のなのだろう。繋いだ手をしっかりと握り離す気配はまったくない。

 もちろん嫌でないけれど、困るというのが正直なところだった。

 はぐれないように、ということはシーワールドの中にいる限りずっと手を繋いでいるということになる。
 
 ただでさえ、心がふわふわとして落ち着かないのに、手を繋いだ途端に心臓が爆音で鳴っている。このままではもちそうにない。

「嫌じゃないけど、困ります……」

「困る?」

 好きな男性とのデートすること自体はじめてなのだ。ただでさえ緊張しているのにしょっぱなから手を繋ぐなんてどう考えてもハードルが高すぎる。

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