エリート海上自衛官の最上愛
 はじめて男性と付き合う芽衣に対して「そのつもりでいる」と言ってくれた彼ならば、きっとわかってくれるだろう。

「えーっと。……すごく恥ずかしくて。私こういうのはじめてなので。いきなり手を繋いで回るのはちょっと」

 うつむきながら芽衣は事情を説明する。

「ドキドキして困るので、できたら手は離してもらえると」

 そう言って彼をちらりと見る。ここまで言えばわかってくれただろうと芽衣は思うが、彼は相変わらず芽衣の手をしっかりと握ったまま、何やら意味深な笑みを浮かべた。

「芽衣、それは逆効果だ」

「え?」

「そんなに可愛くお願いされて、わかったと手を離す男はいない」

「え⁉︎」

 なにを言われているのかわからなくて声をあげると、彼はくっくと肩を揺らした。

「ドキドキするなら俺にとっては好都合だ。離すわけがないだろう」

「そんなぁ……」

 せっかく正直に言ったのに、まったく芽衣の言うことなど聞く気がなさそうな彼に、芽衣は眉尻を下げる。

「でも、このままなんて。私、自信がありません。本当にドキドキして……」

「すぐに慣れるよ。さあ行こう」

 そう言って彼はまた歩き出す。芽衣も彼について歩き出した。

 ゲートに近づくにつれて人は多くなっていく。確かに彼の言う通り手を繋いでいる方がはぐれないでいいように思える。

 でも芽衣のドキドキは大きくなる一方だ。大きな手が自分の手を包むのを直視できなかった。

 仕事がらネイルもしておらず、ろくに手入れもしていない。それどころか以前魚を捌いている時に誤ってついてしまった傷痕が残っている箇所があるくらいだ。普段ならなんとも思わないのに、妙に恥ずかしく思えた。

 チケット売り場の列の最後尾でふたりは足を止める。晃輝が芽衣を見て繋いだ手を軽く上げた。

「まだ気になる? どうしても無理そうなら離すけど」

 嫌ではないという意味で芽衣は首を横に振った。

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