エリート海上自衛官の最上愛
 さっきドキドキしていると言って胸に手をあてられたのも、本当にそうだったのかあやしいと思うくらいだった。

「……初心者の私に合わせてくれるって言ったのに」

 思わずそう呟くと、晃輝が即座に答えた。

「『そのつもりでいる』と言っただけだよ」

「でも」

 頬を膨らませて、芽衣はじろりと彼を睨む。

 全然そのつもりでいてくれているようには思えなかった。

 すると彼はふっと笑って、大きな手で芽衣の頭をなでた。

「そうやって睨む芽衣も可愛いな。今日はそういう君の顔も見られると思うと、楽しみだ」

 また甘い言葉を口にする彼に、芽衣は目を丸くして慌てて周りを見回す。誰にも気づかれていないと確認してホッと胸を撫で下ろした。

 それなのに晃輝はやっぱりご機嫌で芽衣の頬をふにふにとしている。そこでチケットの順番がきてようやく芽衣は彼の甘い言葉の攻撃から解放された。

「フリーパス付き、大人二枚で。釣りのチケットもお願いします」

 チケットを買う彼の背中を見つめながら、芽衣は心の中でため息をつく。

 困ったな……。

 今日の彼には、なにを言っても無駄な気がする。

 けれど本当に困っているのは意外な彼の一面に、いちいちドキドキしてしまっている自分自身に対してだった。

「芽衣、行こう」

 再び晃輝が芽衣の手を取る。

 芽衣は、帰る時までどうかこの心臓がもってくれますようにと願いながら、歩き出した。
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