エリート海上自衛官の最上愛
 入り口のゲートを抜けて建物の中に入ると、視界が一気に暗くなる。向かう先は長いトンネルだ。

 おそらくトンネルの先がパークのメイン広場だ。晃輝が足を止めて振り返りさっきまでとはうって変わって真剣な表情になった。

「芽衣、別のルートから入れないか聞いてみよう」

 トンネルが巨大な水槽の中を抜ける構造になっていたからだ。水槽の中には色とりどりの魚がたくさん泳いでいて、トンネルと歩いている間、まるで海の中に入っているように感じられる趣向だ。シーワールドの見どころのひとつなのだろう。

 でもそれが芽衣にとってはよくないと晃輝は判断したのだろう。

 ——確かに、海の底にいるような空間に、芽衣は、心臓が少し速くなるのを感じた。

 けれど視界の先の魚たちに視線を移すと興味をそそられるのも確かだった。色とりどりの熱帯魚の間を大きなエイがまるで飛ぶように泳いでいく。

 トンネルのガラスに大きな蛸がべったりと張り付いているのを近くで見てみたいと思った。

 普段の自分なら絶対にチャレンジしようなどとは思わないけれど……。

 少し冷たくなった指先にギュッと力が込められるのを感じて芽衣は手元に視線を落とす。晃輝の大きな手がしっかりと芽衣の手を包んでいる。

「……手を繋いでいてくれますか? それなら大丈夫のような気がします」

 そもそもここへ来てみようと思ったことが芽衣にとっては奇跡に近いことなのだ。そしてそれは、大好きな彼とだから。彼に手を繋いでもらっていればできるような気がした。

「芽衣、無理をしなくていい」

 彼の言う通りだ。今日は彼とのはじめてのデート、わざわざつらくなりそうなことを我慢してする必要はまったくない。

 でもそうではないと芽衣は思った。

 つらいけど頑張っているわけではない。ただ純粋にあの水槽のトンネルを潜ってみたいと思っている。

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