エリート海上自衛官の最上愛
 この場所が怖くないかという問いかけだ。
 トンネルを抜けて園内に入ってからも彼はこうやって時々、確認をしてくれる。

 それが芽衣にとってはありがたかった。今のところ楽しいだけだが、万が一無理だと思ったら、いつでも彼に言えばいいと安心できるからだ。

「大丈夫です。それより晃輝さんより先に釣ろうと思って張り切ってます」

 晃輝が、安心したように笑って水面に視線を移した。

「いや俺も結構、釣りは得意だから。それにしても懐かしいなー」

「晃輝さんも小さい頃から海が好きだったんですか?」

「どうかな? 俺は好きかどうかなんて考えたことなかったかも。港町だから海はあたりまえにあるっていうか。海のないところに行ったことがないから」

 とはいえ、好きだと言うのは明白だ。糸の先を見つめる彼の目が輝いている。

「海上自衛官になられたのは……マスターの影響で?」

「まあね。だけど祖父の影響もあるかな。うちは祖父も海自なんだ。あまり家にいない親父に代わって、よくイージス艦の話をしてくれたよ。自衛隊の艦船の名前をおしえてくれたりして、それを聞くのが楽しみで……」

 とそこで、なにかに気がついたように口を閉じた。

「ごめん」

 海上自衛隊の仕事に触れることが芽衣の心に負担がかかると思ったのだろう。

「謝らないでください。私大丈夫です」

「だが」

「海上自衛隊の仕事は晃輝さんの一部でしょう? 私だって晃輝さんのことをもっと知りたい。海上自衛隊のお仕事って今まで全然知らなかったけど、大切なお仕事なんですよね。私、うみかぜで働くまで全然知らなくて……」

 この街に来ていなければ、一生知らないままだっただろうと思うと申し訳ない気持ちだった。

 晃輝が、穏やかに微笑んだ。

「それでいいんだよ」

「……え?」

「自衛隊は芽衣のような一般市民が平穏に暮らせるためにあるんだ。だから基本的には日陰の存在ということだが、それでいいと俺は思う。自衛隊が世間から注目され称賛されるということは、国が大災害に見舞われているか、有事の時ということになる。そんなことは起こらないに越したことはないからね」

 その言葉に、芽衣はうみかぜで出たクイーンマリア号の座礁事故を思い出していた。それ以外で芽衣が『自衛隊』の存在を思い出すのは、たびたび起こる震災の時だ。

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