エリート海上自衛官の最上愛
「船に乗ってる芽衣か。可愛かっただろうな。見たかった」

『芽衣が大きくなったら、お父さんの船に乗せてね。お魚いっぱい釣るから!』

 父に褒められると嬉しくて芽衣はそう答えたのだ。

「父との約束は守れなかったけど」

「だけど今の芽衣の姿を見てもお父さんは喜ぶと思うよ」

 晃輝が鯛の口の針に苦戦しながら呟いた。

「え?」

「芽衣の魚料理の腕前だよ。どうしてあんなに上手い煮魚が作れるのかって思ってたけど、今日の芽衣を見ていたら納得だ。ご両親は魚を獲ることに情熱を燃やしていた。それはたくさんの人が美味しい魚を食べられるようにだろう。形は少し違っても芽衣はその意思をしっかりと受け継いでいるんじゃないかな」

 そこでようやく針が外れて晃輝は顔を上げる。鯛を持ち上げてにっこりと笑った。

 ふたりの関係がどうなるかはわからない。けれど彼と出会ってよかったと芽衣は思う。彼と出会って、人を愛することを知り、新しい一歩を踏み出せたのだから。

 そんな確信で胸がいっぱいになるのを感じながら、芽衣は涙を指で拭った。
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