エリート海上自衛官の最上愛

晃輝の約束

 水平線が夕陽に照らされてオレンジ色に輝いている。群青色と紫色のコントラスト描く空を、海辺の公園のベンチに並び芽衣と晃輝は眺めている。シーワールドからの帰り道である。

 午前中に芽衣が鯛を釣った後、ふたりは園内のレストランで、その鯛のグリルで少し早いランチを取った。

 午後は、アトラクションエリアへ行き乗り物を楽しみ、その後イルカショーやカピバラの餌やりをしたりめいいっぱい楽しんでから、シーワールドを出てきたのである。

「鯛、美味しかったですね」

 自分で釣った魚をその場で食べられるなんて、贅沢な時間だった。

「ああ。だけど、芽衣と魚を食べたら煮魚を食べたくなったよ。芽衣の煮魚定食最近食べていないから。あのポテトサラダの隊員じゃないけど、そろそろ禁断症状が出そうだ」

 そう言って肩をすくめる晃輝に、芽衣はくすくす笑った。

「晃輝さんまで……。大げさ」

「そんなことないよ。いずもで出される食事は美味しいから今まで満足してたんだけど、最近物足りなく感じることがあって困ってる。……だけどそもそも芽衣はどうして料理の道を目指そうと思ったの?」

 その問いかけに、芽衣は昔のことを懐かしく思い出しながら口を開いた。

「両親が亡くなって私を引き取ってくれたのが、母の従姉妹のおばちゃんだったんです。おばちゃん、地元の信用金庫で働いてるんですけど、仕事もできるし美人だしですごくかっこいい人なんだけど、……料理が苦手で」

 芽衣はそこで言葉を切ってくすくすと笑い出す。芽衣を引き取るまでは、ほとんど外食で済ませていたという。芽衣が来てからは一生懸命作ってくれたのだけど、お世辞にも上手とは言えない代物だった。

「そもそもすごく忙しい人だし、私もなにかできないかなと思って作るようになったんです。そしたらすごく喜んでくれて……。嬉しかった」

 小学生の芽衣が作る料理だって、はじめはぐちゃぐちゃだったように思うけれど、それでも美味しい美味しいと言ってたくさん食べてくれたのだ。

「それで、私すっかり調子に乗っちゃって将来の夢は料理人って決めちゃったんです」

「小さな頃からやってたのか、それは筋金入りだな」

 晃輝が感心したように言った。

「でもはじめの頃は失敗ばかりしていました。チャーハンはいつも焦げ焦げだから、うちに来てた直くんが……」

 とそこで、言葉を切って黙り込んだ。

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