エリート海上自衛官の最上愛
 料理を作ると周りの人が『美味しい』と言って褒めてくれた。それが芽衣が元気を取り戻す力になったのだ。

 そしてその中のひとりが直哉だった。

 従伯母の帰りが遅い日、直哉と一緒に帰りを待っていた時のことを思い出す。お腹がすいたと言う直哉に芽衣はチャーハンを作ったのだ。

 焦げたチャーハンを変な顔をしながらも彼は全部食べてくれた。あの時からずっと家族のようにそばにいて、心の支えになってくれていた。

 いったいいつから芽衣のことをそういう風に想っていたのかはわからないが、その気持ちに応えられなかった以上、もうこれまでのような関係には戻れないのだろう。

 そのことがたまらなく寂しかった。

 男性として愛することはできなくても、彼が芽衣にとって大切な人であることには変わりない。

「直哉くんとなにかあった?」

「ちょっと……。私のせいなんですけど」

 優しく光輝に問いかけられて、芽衣は曖昧に答える。誤魔化すつもりはないけれどどう言えばいいかわからなかった。

 それでも晃輝には、だいたいのことは伝わったようだ。

「直哉くんは本当に芽衣のことを大切に思っているようだね。……今すぐには無理でも、時間がたてばいつかもとの関係に戻れるんじゃないかな」

 直哉の気持ちしだいだけれど、本当にそうだったらいいなと芽衣は思う。

 彼の気持ちに気づかずに傷つけてしまっていたのは芽衣だ。許されるかどうかはわからないけれど、今は晃輝の言葉を信じたかった。

「……両親が亡くなったことはつらかったし寂しかったけど、私その後は、周りの人に恵まれていたと思います。おばちゃんや直くん、直くんのご両親もよくしてくれましたし、今だって……」

 ホテルでのことはつらかったが、うみかぜに来てからは優しいマスターと陽気な客たちの中で楽しく働けて回復した。

 はたからみれば不幸な道を歩んできたように見えるかもしれないけれど、芽衣自身は決してそうは思わなかった。

「うみかぜで働けて、お客さんたちに私の料理を美味しいを言ってもらえるんだもん。ありがたい」

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