エリート海上自衛官の最上愛
 芽衣の方に晃輝の腕が伸びてくる。頬を優しく包んだ。

「それは、君だからだよ、芽衣。芽衣が人を呼び寄せるんだ。素直で頑張りやの君を見ていると、元気をもらえるような気になれるからね。そして俺もその芽衣に惹かれた者のひとりだ」

 まさか、そんなことはない。

 自分はその時やれることをやっているだけで、特別なことはしていない。今この環境にいられるのはただ運がよかっただけだろう。
 けれど今は、優しい彼の言葉を素直に受け取ろうと思った。

「ただ」

 そう言って、晃輝は顔をしかめた。

「本音を言うと、隊員たちがうみかぜで君に親しげにするのは面白くない。中には本気で君を好きだったという者もいるだろうし。この前、皆の前で『付き合ってる』と宣言したから、俺と君が特別な関係だけということは広まったはず。さすがになにかしてくる者はいないだろうが……」

 冗談を言う彼に、芽衣はくすくすと笑った。

 また彼の余計な心配がはじまった。

「そんな、それは晃輝さんの考えすぎです。皆さんが私に親切にしてくださるのは、紳士であれって言う海上自衛隊の教えがあるからでしょう?」

「いや違う、紳士は『芽衣ちゃん』なんて呼ばないだろう?」

「もう……!」

 巨大で厳格な組織の幹部となるのに相応しいと皆に認められている彼の意外すぎる一面が、おかしかった。そして、そんな彼が愛おしくてたまらない。

 親指が瞼を優しく辿る感覚を心地よく感じて目を閉じた。

 ——彼とともに生きていきたい。

 今日一日で、その想いがさらに強くなるのを感じていた。

 出会ってから付き合うことになったあの時までは、惹きつけられる気持ちに抗えずあっというまだったように思う。彼をカッコよくて魅力的な人だと感じてはいたが外面的な部分に惹かれていた。

 けれど今日は、素顔の彼と知らなかった一面をたくさん見た。

 芽衣への気持ちをまったく隠すことなくそのまま口にするところ。

 芽衣の手を繋ぐという、些細なことにこだわるところ。

 どれも彼と出会ったばかりの頃からは想像もつかない彼の一面だ。

 彼の職業に対する思いも知った今、芽衣の中の彼への愛はより深いものとなって、歴然として存在している。

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