エリート海上自衛官の最上愛
 彼の隣で、彼とともに生きていきたい。

 ……でも。

 夕日が沈む海を見つめる。はるか向こう沖を大型客船が航行していた。

 彼と生きていくならば、自分には超えなくてはいけない試練がある。一年の半分以上を船の上で過ごす彼のことを心配して過ごすことに耐えなくてはならない。

 しかもそれはひとりで乗り越えなくてはならないのだ。国防という重要な職務を果たす彼に、弱音を吐くことなどできるはずがないのだから。

「実は俺、小学生の頃は海が少し苦手だった」

 晃輝が、静かに口を開いた。その意外な内容に芽衣が彼を見上げると、晃輝も海の向こうの船を見つめていた。

「その頃は親父が現役で、あまり家にいなかったから。船を見ると心配になるんだ。無事に帰ってくるのか……いつ帰ってくるんだろうっていう寂しさもあったな。そんな複雑な気持ちになるから」

 さっきまで芽衣が考えていたことを言い当てられたような気持ちになって、芽衣は目を見開いた。

「もちろん憧れてもいたんだけど、あの頃はやっぱりそばにいてほしいと思うことが多かった。しかも心配だとかそう言う気持ちは親父には言ってはいけないと思ってたから直接言うこともできなかったし」

 そう言って彼はため息をついた。

「今から思えば言えばよかったんだと思う。母さんが亡くなった時も……いや普段から、心配だ、行かないでほしいって。そういう関係だったらもっと早くに……。本当は、親父もそうして欲しかったんだと思う」

 その言葉は芽衣にとっては意外だった。

 心配だとか、行かないでほしいという気持ちを本人に伝えるなんて、してはいけないことのような気がする。待つ者の心得としてはその気持ちは隠して笑顔で送り出すのが、いいのではないだろうか。

「でもそれって、負担になるでしょう?」

 家族が心配しているのはわかっていても直接言われるのとは訳が違う。負担になって職務に影響しないだろうか?

 晃輝が芽衣に視線を移してきっぱりと言い切る。

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