エリート海上自衛官の最上愛
 もう来てくれないかと思っていた。あの日からメッセージでのやり取りもなくなっていたからだ。彼の想いを受け入れられなかったことで幼馴染の関係は終止符が打たれたのだと思っていたのに。

「マスターの生姜焼きを食いにきたんだよ」

 バツが悪そうにそう言って、彼はカウンターに座った。

「いらっしゃい、生姜焼き定食でいいね」

 厨房から出てきたマスターが確認してからまた戻っていく。

 芽衣は彼の前におしぼりとお冷を置いた。

「来てくれてありがとう」

「べつに礼を言われるほどのことじゃねえよ」

「でも……」

「それにあれは、お前が謝ることじゃない。俺の問題なんだから」

 芽衣が罪悪感を抱かずにいられるようにそう言ってくれる。その優しさに芽衣は何度救われただろう。

「それより、今日は俺だけ? こんなんじゃ困るんじゃね?」

 直哉が首を傾げて店の中を見回した。

「今お客さんが途切れてるだけだよ。いずもが出航しているから、もともとお客さんが少ないんだけど」

 芽衣がそう言って窓の外を見ると、直哉もつられたように窓の外を見つめた。

「あの男は、そのいずもに乗ってるのか?」

 あの男とは、晃輝のことだろう。

「……うん」

「また、何カ月も帰ってこないのかよ?」

「今回はそこまでではないって言ってた。もちろん詳しい日程は知らないんだけど」

 窓の外を見つめたまま芽衣は答える。

 いつになるかはわからない。けれどきっと彼は帰ってきたその足でここへ来てくれるだろう。その確信が胸にある。

「だー‼︎」

 直哉が突然声をあげて机に突っ伏した。

 芽衣は驚いて振り返った。

「俺の方がずっと長く見てたのに、いきなり現れたやつに取られるなんて! トンビに油揚げを攫われるってこういうことを言うんだな」

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