一途な海上自衛官は時を超えた最愛で初恋妻を離さない~100年越しの再愛~【自衛官シリーズ】
 直哉が目を丸くする。彼の言う通り、皿に盛られた生姜焼きは、通常の二倍くらいはある。

「それ食べて元気を出してくれ」

 マスターがにっこりと笑った。

 芽衣にも直哉にも問いただすことはないが、それとなくなにがあったのかくらいは気がついているのだろう。

「ありがと、マスター。ここはやっぱりいい店だよ。ポテトサラダとビールも追加してくれる? 今日は飲みたい気分だ。ってか飲まなきゃやってられねえ!」

 マスターが「あいよ」と答えて、すぐに小鉢とビールを持ってきた。

「今日は俺の奢りだよ」

「えー嬉しいな。そうだ、マスターも飲まない? 今日はもうお客さんこなさそうだし。大切にしてた妹に彼氏ができてしまった兄を慰めてよ」

「じゃあ、そうするよ。俺も直哉くんと同じ気持ちだし。傷を慰め合おう」

 そう言って、椅子を持ってきてカウンターの中で直哉の向かいに腰を下ろした。

「なに言ってんの。相手はマスターの息子じゃん」

「いやいや、芽衣ちゃんは娘みたいなもんだから……」

 そんな会話をしながらジョッキをカチンと合わせるふたりの姿がじわりと滲み、芽衣は彼らに背を向けてそっと涙を拭った。

 まだ完全に決心できていない状況で、これからどうなるか、はっきりとはわからない。でも、ひとつだけ、自信を持って言えることがある。ここへ来てよかったということだ。

「芽衣ちゃんも飲もう。追加でつまみを用意するよ、暖簾を下げてきてくれ」

「いいんですか?」

「もちろんだよ」

 言われた通りにして、カウンターに並んで座り再びグラスを合わせた。

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