一途な海上自衛官は時を超えた最愛で初恋妻を離さない~100年越しの再愛~【自衛官シリーズ】
「それにしても、マスターの息子はいい男だよね。はじめて会った時に、俺これはやばいって思ったもん。マスターもいい男なんだからあたり前なんだけど。芽衣、お前ほとんどひと目惚れだろ?」

 からかうような直哉からの問いかけに、芽衣は頬を染めて口を尖らせた。

「直くんもう酔っ払ってるの?」

「酔っ払ってるよ、だから言えってほら、どこを好きになったんだ?」

「答えません」

 そんなこと言えるわけがないけれど、そう言われてみれば、晃輝に対してははじめから、なんなら出会った瞬間から不思議なものを感じたことを思い出す。

 晃輝がマスターの息子だと知る前に『おかえりなさい』と声をかけてしまったあの時の感覚だ。

 あれがひと目惚れというものなのだろか?
 どちらかというと、懐かしいようなやっと会えたというような感覚だったけれど……。

「そもそも芽衣はどうしてこの街に来ようと思ったんだ? ホテルを辞めて他の分野の料理を学びたいってのはわかるけど、いきなり横須賀なんて」

 直哉の疑問に、マスターも同調する。

「それは俺も不思議に思ったよ。この店はグルメサイトの類はすべて断ってるから、ネットで見てきたわけじゃないだろう?」

「調べてきたわけじゃないです。たまたま坂の下から明かりが見えて……」

 ここへ来た夜のことを思い出しながら、芽衣は彼らの疑問に答えるが、今ひとつ要領を得ない。自分でもよくわかっていないからだ。

 あの日、社宅を退去した後、本当はそのままビジネスホテルを探すつもりだったのだ。

 一旦、北海道へ帰るつもりだったけれど、いきなり帰ると従伯母を驚かせて心配させてしまう。とりあえずしばらく頭の中を整理して、必要であればそれらしい理由を取り繕わなければと思っていた。

 でも芽衣はそうはせず、気がついたら京急本線に揺られていた。

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