エリート海上自衛官の最上愛
 海が苦手な自分が、この街へ来たこと。

 海難事故で両親を亡くしているにもかかわらず、晃輝に惹かれ愛し合うようになったこと。

 はじめから彼に特別なものを感じたことを、直哉はひと目惚れと言ったけれど、どちらかというとこの言葉の方がぴったりだと感じた。

 マスターの隣で直哉が再び突っ伏した。

「俺にとってはそうとも言えないけどなー」

 マスターが少し真剣な表情で芽衣を見た。

「だから芽衣ちゃん晃輝とのことがどうなっても、君がここにいたいと思う限りここにいていいからね」

 少し前、芽衣が考えていた不安に対する言葉だ。晃輝の気持ちに応えられないならば、この店を辞めなくてはならないと芽衣が思っていることなどマスターにはお見通しなのだろう。

「……はい、ありがとうございます」

「ああ、俺にもいい出会いないかなー。この店、いい店なんだけど男ばかりなんだよなー」

「いや、直哉くんならこんな店で出会いを探さなくても、仕事関係でいくらでもあるだろう」

「どうかなー考えたこともなかったから」

 芽衣のポテトサラダをつまみにそんな話をするふたりを見つめながら、芽衣は温かい気持ちになっていた。

 この場所にいたいと強く思う。晃輝とのことも結論が出かけているように思った。

 ——彼となら、自らの弱さを抱えていても一緒にいたと思う。

 この場所で、一年の半分を彼を待つ人生。これまでの生きてきた中で、考えてもみなかった道だった。

 その人生はいったいどんな人生になるのだろう?

 笑い合うふたりと、窓の外の横須賀の夜景を見つめながら、芽衣はそんなことを考えていた。
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