エリート海上自衛官の最上愛

写真

 海から吹く風が少し涼しく感じるようになった日曜日、芽衣は街からうみかぜに続く坂道を上っている。スーパーへ買い出しにいった帰りである。

 振り返ると午後の穏やかな日差しのもと海が輝いている。

 晃輝は今、どのあたりにいるのだろう?
 そこの海はどんな色をしているのだろう?

 うみかぜの前を通りかかると、定休日なのに店の扉が少し開いている。暖簾はかかっていなけれど、中から人の気配がするのを感じて、芽衣は外から声をかけた。

「こんにちは、マスター」

「ああ、芽衣ちゃん。ちょうどよかった」

 彼は、カウンターに座って何かを広げていた。古い写真のようである。

「仕事ですか?」

「いや、午前中に市内の母の家へ行ってきたんだよ。亡くなって三年空き家になったままだから、そろそろなんとかしないと思ってね。で、祖父の遺品を整理していたら、昔のうみかぜの写真が出てきたんだ」

『昔のうみかぜ』という言葉に、芽衣は首を傾げた。一階が店舗、二階以上が居宅というこのビルは、マスターがうみかぜをはじめた時に建てられたものと聞いていたからだ。

「うみかぜは、マスターがはじめたお店だと思っていました」

「今のうみかぜはね。この場所は曽祖父の代から衣笠家(うち)が所有しているんだが、戦前はうみかぜという食堂をやっていたんだよ。昔も海軍の軍人さんがよく来る食堂だったそうだよ。俺のひいひい祖父さんの時代になるんだが」

「そんなんですか」

 はじめて聞く話だった。

「海自を辞めて陸で職を得ることにした時食堂をやろうと思ったのは、俺の爺さんから昔はここで食堂をやっていたという話を聞いていたからなんだよ」

「じゃあ、うみかぜっていう名前もそのお店からいただいたんですね」

「そうそう。だからさ、実家にある遺品は近々処分するつもりだけど、うみかぜに関するものは残しておこうかと思って探してきたんだよ。そしたら、面白いものが見つかってね。ちょうど芽衣ちゃんに見せようと思ってたんだ」

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