エリート海上自衛官の最上愛
 そう言って、マスターはカウンターに置いてある風呂敷包みをそっと開ける。中から古びた木の箱が出てきた。

 蓋はモダンな柄の千代紙が飾りつけるように貼ってある。左下のあたりに『衣笠みお』と書かれてあった。持ち主の名前だろう。

「私に?」

 マスターの言葉を不思議に思って芽衣は首を傾げた。

「うん、そう。芽衣ちゃんに」

 そう言ってマスターは、そっと箱を開け中から一枚の写真を取り出した。

 うみかぜと書かれた看板を掲げる平屋建て建物と、その前に立ち微笑む夫婦、若い女性の写真だ。

「この夫婦は俺の曾祖父さんの両親だ。うみかぜの初代店主だな。で、のちにこの食堂を継ぐのがふたりの間にいる娘さん。俺の曾祖父さんの妹で、衣笠みおという人なんだが」

 マスターはそこで言葉を切って、芽衣を見る。

 写真の中で微笑む衣笠みおという女性に、芽衣の視線が吸い寄せられる。なぜマスターが芽衣にこの写真を見せようと思っていたのががわかった。

 彼女が、芽衣にそっくりだからだ。

「不思議だろう? 芽衣ちゃんの生き写しみたいだ。実家でこの写真を発見した時は、鳥肌が立ったよ。この間直哉くんと話した時のことを思い出してね。芽衣ちゃんがここへ来て働くことになったのは不思議な巡り合わせだと思ったがもしかしら本当に運命だったのかも……。なんてまあそこまで言うと言い過ぎかもしれんが」

 そう言ってマスターはあははと笑った。
 マスターは、半分以上冗談で言っているけれど、芽衣にはそうは思えなかった。

 ここへ来た夜、あそこへ行きたいと感じた、強い思いが蘇る。思い返してみると、あの時自分は"行きたい"と思ったというよりは"帰りたい"と願ったように感じた。

「みお……さんは、この後うみかぜを継いだとおっしゃいましたよね。お子さんは?」

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