エリート海上自衛官の最上愛
『大正二年、女学校を卒業。父母の手伝いをはじめる』という一文からはじまるカタカナと漢字で書かれたその手記は、うみかぜで起こった出来事が書かれてあるのだろう。

 けれど進むにつれて、うみかぜで客に提供していた献立の記録がほとんどになっていく。

 時折絵を交えながらの記述に、思わず芽衣はくすりと笑う。彼女は本当に料理好きの女性だったのだろう。

 うみかぜであった出来事を残そう思ってはじめたはずが、いつの間にかレシピ集のようになってしまっている。けれどそこに芽衣は興味をそそられる。下ごしらえの仕方から味付けのタイミングまで細かく丁寧に書かれてある。

「すごい……。あ、煮魚。この頃から、カレイは人気だって書いてある」 

 開いた箇所を読み芽衣が呟く。マスターが芽衣に手記を差し出した。

「持って帰って読んでいいよ。なんだか、この手記は芽衣ちゃんのために書かれたみたいな気がするし」

 大切な手記を持って帰るなんて恐れ多いと思いつつ、芽衣自身もそうしたいと思った。たくさんのレシピの合間に綴られる彼女が愛おしい人を待ちながらうみかぜで過ごした日々がどんなものだったのか……。

 彼女自身のことも知りたかった。訃報が届いてもなお、婚約者の帰りをここで待ち続けていたという彼女のことを。

 どうしてか高鳴る胸の鼓動を聞きながら、頷いた。

「お借りします」
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