エリート海上自衛官の最上愛
 うららかな午後の日差しの中、キラキラと輝く青い海、沖を白い大きな船が航行している。自分の部屋の窓辺に座り、外からの風を感じながら、芽衣は、読み終えた衣笠みおの手記を手にそれを見つめている。

 ずっと以前彼女もこの場所から、こんな風に海を見つめていたのだろう。

 それは彼女の記憶でありながら、まるで自分の過去のようにも感じた。

 カタカナ混じりの日記は、芽衣には慣れない文体であるはずなのにさほど苦労なく読むことができた。

 彼女がいかにうみかぜという場所を大切に思っていたかがそこかしこに感じられる記録だった。

 そしてその大切な場所と切っても切れない関係だったのが、彼女の愛した人、大谷(おおたに)武志(たけし)だ。

 マスターが言っていた彼女の婚約者だった海軍将校だ。

 海の香りを感じながら、芽衣ははじめの方のページを開く。

 ふたりの出会いは、みおの両親が営んでいたうみかぜに武志が先輩将校に連れられてやってきたことだったようだ。

『驚くほど背が高く、怖い目つきの将校さん』

 彼女が綴った彼の第一印象に、芽衣は思わずふふっと笑う。

 晃輝とはじめて会った時を思い出したからだ。あの時は、彼の背の高さと厳しい印象に驚いた。

 その後、彼自身を知るとその印象はガラリと変わったが、どうやらみおの方も同じだったようだ。

『話してみると優しい方』と書いてある。

 まるでかつての自分が書いたような不思議な気持ちを抱きながら、芽衣は別のページを開く。カレイの煮付けの作り方が記載されたページだ。

 仕入れたカレイの厚みや新鮮さに応じて、火を通す時間や味付けの濃さを変えるというのは芽衣も気をつけていることで参考になる。

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