エリート海上自衛官の最上愛

わだかまり

 うみかぜでは、金曜日の昼営業のメニューは、カレーライスだけになる。これは客のほとんどが海上自衛官であるということが関係している。

 海上自衛隊の艦船の食事は、長期の航海の際、艦船の中で過ごす隊員たちの曜日感覚を保つために、金曜日はカレーと決まっている。

 そのため隊員たちの中には、船を下り陸にいる期間も金曜日になるとカレーを食べたくなる者がいるのだという。

 はじめはそんな要望に合わせて金曜日だけ定食に加えてカレーを出すようになったという。だが結局カレーばかりが売れるため、金曜日はカレーだけにすることにしたのだ。

 晃輝は、その日のカレーを売り切った頃にやってきた。

「お……かえりなさい」

 ガラガラと扉を開けて暖簾をくぐってきた彼を見て、芽衣は思わずそう声をかける。

 そしてそんな自分に驚いた。

 昨日、彼に対して『おかえりなさい』と言えたことをきっかけに、今日からは他の客にも同じように言えるかと思っていたけれど、結局、気恥ずかしくて言えなかったからだ。

 ——やっぱり私は『いらっしゃいませ』でいいや。

 そう思っていたのに、晃輝の姿を見た瞬間にどうしてかまたおかえりなさいと口から出てしまっている。

 晃輝が一瞬動きを止めて「ただいま」と答えた。

「あれ、珍しいじゃないか、晃輝。お前が二日連続で来るなんて。また演習に出るのか?」

 芽衣のまかないを準備していたマスターがカウンターの中から声をかけた。

「いや……。ちょっとカレーを食べたくなったんだ」

 晃輝がやや気まずそうに答えた。

 その言葉に、芽衣は口もとに笑みを浮かる。やっぱり海上自衛官は陸にいても金曜日になるとカレーを食べたくなるのだ。

 そこで、晃輝が自分を見ていることに気がついて、慌てて笑みを引っ込める。

「すみません……。海上自衛官の方はやっぱり金曜日になるとカレーを食べたくなるんだな、と思って」

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