エリート海上自衛官の最上愛
 その最後に書かれた一文を、芽衣は不思議な気持ちで読み返す。

『武志さんの好物。来られるとわかっている日は取っておいた』

 またもや重なる彼女と自分の共通点に、驚くというよりは、懐かしいように感じている。まるでかつての自分を思い出しているかのような気持ちだった。

 一方で、海軍将校と彼女の恋は、両親にはあまり賛成されなかったようだ。

 待つ時間が多く、気苦労も多い結婚を賛成できないと言われたとある。

 普通の相手と一緒になって、穏やかな人生を送ってほしいと両親は願ったと書いてある。

『でも私は、武志さんでないと嫌でした。武志さんでなければ幸せになれないとわかっていました』

 どうやらみおは当時の女性にしては、意思の強い人だったようだ。彼女の気持ちに両親が折れてふたりは婚約をした。

『武志さんでなければ』

 その言葉に芽衣の胸は熱くなった。

 普通の仕事の人と結婚すれば穏やかな人生を歩めるのに、彼でなくてはならないという想いは、芽衣がまさに今感じていることだった。

 ——どうしても、晃輝がいい。彼とでなくては、幸せにはなれない。 

 とはいえ、みおにも葛藤がなかったわけではないようで長く会えなかった期間に泣いてしまったという記述がある。

 ほとんどがレシピで占められている手記の中で、ここだけは一ページを使って詳細に書かれている。それだけ彼女にとっては、思い出深い出来事だったのだろう。

 長い航海へ出る前日のこと、みおはあまりの寂しさに泣いてしまったのだ。

『私は、軍人さんの婚約者失格です』

 武志との結婚に自信をなくした彼女に彼はこう言ったのだという。

『泣いてください。私はそれを受け止める』

 その言葉で、みおは本当の意味で彼と生きていく覚悟ができたと書いている。

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