エリート海上自衛官の最上愛
『いっぱい泣いて、この場所であなたをお持ちしています』

 彼女の覚悟に、芽衣はまるで励まされたような心地になる。

 待つ者の寂しい気持ちも受け止める。

 晃輝も自分にそう言ってくれたから。

 マスターから聞いた、武志の生死に関する事実は、手記の中には出てこない。彼女は婚約者の生存を信じて、待ち続けていたようだ。

 手記を閉じて、芽衣はふうっと息を吐く。

 この場所で、愛する人を待ち続けた彼女の覚悟と、その後の人生に思いを馳せる。

 はたから見るとふたりは悲劇的な結末を迎えたように見えるだろう。

 けれど彼女の胸のうちは、彼に恋をした人生は、幸せだったのではないだろうか。

 穏やかな海の上を海鳥が飛んでいる。
 今いずもはどの辺りにいるのだろう?

「晃輝さん」

 芽衣は青い海に向かって呼びかけた。
 無性に彼に会いたかった。
 会ってこの想いを聞いてもらいたい。

 今も船上にいるあなたが心配でたまらない。それはきっと永遠に変わらないけれど、それでもあなたと生きていきたい。

 私はあなたでなければ、幸せにはなれないのだから。

 ——もう大丈夫、揺らがない。

 海上の船と船がすれ違いざまに、ボーッと汽笛を鳴らしている。

 その音を聞きながら、芽衣はようやく彼と生きていく覚悟ができたと感じていた。
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