エリート海上自衛官の最上愛
 自衛隊横須賀病院へは、マスターが運転する車で向かう。途中、動揺する芽衣をマスターは落ち着かせるように優しく声をかけてくれた。

『芽衣ちゃん大丈夫だ。あいつはひと一倍頑丈だから、大した怪我ではないはずだ』

 さすがは元自衛官。終始落ち着いていて運転もしっかりとしている。だが、芽衣の手の震えは治らなかった。

 病院の総合受付にて、マスターが晃輝の家族だと告げている廊下の向こうから、見覚えのある人影がやってくるのが見えた。

 晃輝だ。

 そう思った瞬間に、芽衣の身体が動いた。

「晃輝さん」

 彼のもとへ駆け寄って広い胸に飛び込んだ。シャツをギュッと掴むと、たくましい腕に包まれる。

「芽衣、心配かけて悪かった」

 耳もとで囁かれる聞き覚えのある声と、大好きな彼の香りに安心して芽衣の目から涙が溢れる。

「心配しました。怪我って聞いて、私……!」

 ここがどこだとか、人が周りにいるとか、そんなことを考えている余裕がなくて、芽衣は彼に力一杯抱きついた。

「ごめん。ちょっとした事故でこめかみあたりを少し切ったんだ。すぐに止血したんだが、頭を打っていたから念のため精密検査を受けた。結果は問題なかったから今帰宅の許可が下りたよ」

 その言葉通り、制服姿の彼は右のこめかみのあたりにガーゼを当てている。

 大きな手で、芽衣の頭を優しく撫でた。

「そうだろうとは思っていたが。まあ不注意なら反省しろ。怪我をしないようにするのも職務を遂行する上では大切なことだからな」

 ゆっくりとこちらに歩み寄りながら、マスターが言う。

 そこへかけ寄り頭を下げる者がいた。

「一尉が怪我をされたのは、私の不注意であります! 詳細は申し上げられませんが、一尉は私を庇ってくださったのです。この度は大変申し訳ありませんでした」

 晃輝の後ろにいた若い隊員だ。

「君ももう宿舎へ帰りなさい。付き添いご苦労だった」

 晃輝が彼に声をかける。彼は晃輝に敬礼をしてもう一度マスターに頭を下げてから、帰っていった。

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