エリート海上自衛官の最上愛
 そんな周りのやり取りに、芽衣は少し冷静になる。皆が見ている前で、晃輝に抱きついてしまったことが恥ずかしくて、慌てて離れようとするが、晃輝の腕にギュッっと力を込められていて無理だった。

「衣笠さん、手続きは済んでおりますから、もうお帰りいただいて結構ですよ。隊への報告書は後日こちらから直接送っておきます」

 年配の女性看護師が晃輝に向かってそう言った。

「ありがとうございます」

 答える晃輝の腕が少し緩んだのを感じて、芽衣はすかさず彼から離れた。

「す、すみません。騒いでしまって……」

 誰ともなく謝ると、看護師がニコニコとして答えた。

「大丈夫ですよ。この病院は、一般の患者さんも受け入れておりますが基本は隊員の方を診る場所ですから、ご家族が駆けつけてこられてこうやって心配されるのはよくあることです」

 ご家族という言葉と、看護師と同じようにニコニコしているマスターを見て、芽衣は頬を染めてうつむいた。

 看護師に挨拶をして、三人は正面玄関を出る。朝晩は少し涼しくなったとはいえ、まだ昼間の日差しは強く、熱気を感じるくらいだった。

「なかなか涼しくならんな」

 マスターが太陽を睨み文句を言ってから晃輝に問いかけた。

「お前、今日は休みか?」

「ああ。もともと非番だけど、傷病休暇もつくから、今日から三連休」

「なるほど。芽衣ちゃん悪いけど、この息子をタクシーで家まで送ってやってくれないか? 俺は店の準備があるから帰らないと。今からだと、昼は無理でも夜営業には間に合いそうだ。今夜あたりいずもを下りてうちの料理を楽しみにしているお客さんが来るだろうから、夜は開けたい。それから今日は休みでいいよ。働きだしてから全然休みを取っていないから。なんなら三日くらい休んでも大丈夫だからね」

 そう言ってにっこりと笑うマスターに、芽衣は目をパチパチとさせた。

「え? でも……」

 彼を家まで送って、すぐに店に戻れば、夜営業の準備を手伝うことは十分にでいるはず。休むほどではない。それに三日もだなんて……。

「ありがとう、親父。じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうよ。今日から三日間芽衣は休み。心配かけて悪かった。来てくれてありがとう。芽衣、行こう」

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