エリート海上自衛官の最上愛
 芽衣の代わりに晃輝が答えて、芽衣の手を繋ぐ。家まで送ってもらう必要があるのかと思うくらいしっかりとした足取りでタクシー乗り場に向かって歩き出した。

 ニコニコと笑いながら手を振るマスターの姿を振り返りつつ、晃輝の後についてタクシー乗り場を目指しながら、ようやく芽衣もマスターと晃輝のやり取りの意味を理解する。

 久しぶりに顔を合わせた芽衣と晃輝に、しばらくふたりきりで過ごせということだ。
「あの……! 晃輝さん……! でも」

 芽衣は晃輝に呼びかける。だからといってはいそうですか、というわけにはいかなかった。久しぶりに彼の顔を見られたのだ。一緒にいたい気持ちはあるけれど、仕事を休むのは気がひける。

 晃輝がぴたりと足を止めて、振り返った。

「心配かけてごめん。病院の世話になる事故なんて入隊してはじめてなんだが、よりによってこんな時期に……」

 そう言って、苦しげに眉を寄せて芽衣の頭をそっと撫でた。心配する芽衣の心を気遣ってくれているのだ。

「心配はしましたけど……ご無事だったのでよかったです。取り乱してすみませんでした」

 彼の部下もいる場所でのさっきの芽衣の振る舞いは、彼の信用を失わせかねない行為だった。

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