エリート海上自衛官の最上愛
 不快に思われたかもしれないと、申し訳ない気持ちで芽衣が謝ると、晃輝が目元を緩めた。

「いや、いいよ。……もうこれは職業病みたいなもんだね」

 思いがけず柔らかな答えが返ってきて、布巾を手にしたまま芽衣は瞬きを繰り返す。

 隣でマスターが残念そうに口を開いた。

「だけどタイミングが悪かったな、晃輝。カレーはさっき売り切れた」

「マスター、私の分をお出ししてください」

 確かにカレーは売り切ってしまったが、芽衣のまかないとして、ひとり分だけ残してあるのだ。それを食べてもらえばいい。

「いや、そこまでしてもらわなくて大丈夫。遅くに来たのが悪いんだ。なにもないなら帰るよ」

 晃輝がそう言って帰ろうとする。

「でも、せっかく来てくださったのに。私は後で適当になにか食べますから」

「じゃあ、芽衣ちゃんには炒飯を作るよ。晃輝、座れ。先にお前のカレーを出す」

 マスターがニコニコと笑って結論を出した。

 晃輝もそれ以上固辞せずにカウンターに座る。

 マスターがカレーを晃輝の前に置くと、彼は背筋を伸ばして目を閉じる。大きな手を静かに合わせた。

「いただきます。カレーをいただいてしまって申し訳ない。……お先に」

 芽衣に断ってからを食べはじめた。

 ——やっぱり、この人の食べ方好きだな。

 マスターが炒飯を炒める音を聞きながらカウンターのふたつ空けた席に座り、芽衣はそんなことを考える。

 綺麗な食べ方と丁寧な仕草からは、目の前の食べ物と作ってくれた人に感謝する気持ちが全身から伝わってくる。料理人としては、こんな風に食べてもらえるのは嬉しい。

「……なにか?」

 晃輝がスプーンを持つ手を止めて芽衣を見た。問いかけられて、芽衣は自分が彼をじっと見てしまっていたことに気がついた。

< 15 / 182 >

この作品をシェア

pagetop