エリート海上自衛官の最上愛
「私の中の気持ちが変わり出したのは、あのシーワールドに行った日です。晃輝さんが、私の気持ちを受け止めるって言ってくれたから。私、晃輝さんを心配する気持ちはひとりで耐えなきゃいけないものなんだって思ってたんです。晃輝さんは重要なお仕事をされてるんだから、私の気持ちを口に出して負担をかけちゃいけないって。そんなのできそうにないって……」

 膝の上に置いた芽衣の手に晃輝の手が重なった。

「ひとりで抱えなくていい。全部俺が受け止める」

 力強く言い切る彼に芽衣は畳み掛けるように問いかける。

「行かないでって言ってしまうかも」

「それが芽衣の気持ちだろう? そう思うのはあたりまえだ。言ってくれ。俺は芽衣の本心が聞きたい」

「泣いてしまってもいいですか?」

「もちろんだ。俺も親父が出ていく時はよく泣いた。それが自然な気持ちだよ」

 自分をみつめる彼の瞳に、深い愛情が浮かんでいる。その愛はどこまでも、いつまでも続くと芽衣は確信する。

「それなら私、晃輝さんと生きていけます。ふたりで乗り越えられるなら……」

 頬を熱い涙が伝う。また、泣いてしまったと芽衣は思った。

 彼に出会ってからの芽衣は、泣き虫になってしまった。

 それこそ会ってすぐに涙を見られている。そしてそれ自体、彼が芽衣にとって他の人とは違うということの証拠のように思う。

 今まで芽衣は、あまり泣くことはできなかった。

 両親がいない芽衣が泣けば周囲を心配させ、迷惑をかけることになるからだ。

 いつもどこか遠慮をして強くいなければならないと自分自身に言い聞かせてきた。つらいことをつらいと考えることすらやめていたこともあったくらいなのに……。

 晃輝の温かい手が優しく芽衣の涙を拭う。この温もりがそばにいれば本当の自分になれるのだ。そして、そうやって生きていきたいと思う。

 彼となら、弱いところも情けない姿も、なにもかもをさらけ出してありのままの自分で生きていける。

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