エリート海上自衛官の最上愛
 首を振って答えると、彼は頷き食器をカウンターの中へ持っていく。食事中の芽衣を気遣ってくれたのだ。

「ごちそうさま。会計を」と言ってポケットに手を入れるが、マスターが首を横に振った。

「金はいいよ。昨日も言ったじゃないか、ここはお前の実家なんだから、いつでもごはんを食べにおいで」

 優しくマスターは言うが晃輝はなにも答えなかった。

 ただ無理に支払いをしようとはせず、もう一度「ごちそうさま」と言って帰っていった。

 扉が静かに閉まると同時に、マスターは少し寂しそうにため息をついた。

 昨日も感じたけれど、マスターと晃輝のやり取りは、親子にしては距離を感じるものだった。とくに、晃輝の方が素っ気ない。

 さっきの芽衣に対する態度や、食事風景から察するに、決して誰かを不愉快にさせるような人柄ではなさそうなのにと、芽衣が不思議に思っていると、マスターがカウンターに手をついて口を開いた。

「ごめんね、芽衣ちゃん。気を遣っただろう? あいつ本当に無愛想だから」

「いえ、すごく優秀な方なんですよね。そんな感じがします」

 芽衣はそう感想を漏らした。仕事柄海上自衛官は見慣れた。

 ここで働きはじめるまでは接したことがない職種だったが、皆礼儀正しく、気持ちのいい人たちだという印象だ。その中でも晃輝はとくに厳格な雰囲気を漂わせている。彼が幹部候補だというのも納得だ。
 マスターがポリポリと頭をかいた。

「俺は現場を見とらんからなんとも言えんが。お客さんたちも皆、俺の前で晃輝を悪くは言えんだろうし」

「だけど、トップの成績だったから幹部になられるのは間違いなしだって昨日のお客さんおっしゃっていましたよね」

「まぁ……そうだな。実は家は、俺の父親も海自でね。イージス艦の副艦長だったんだ。あいつが生まれた頃にはもう退官していたから、よく膝の上に乗せて海の話をしていたよ。だから目標にしているんだろう」

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