エリート海上自衛官の最上愛
「でも芽衣と一緒に暮らした日々は楽しかった。寂しいなんて思う暇なんかなかったし」

「……はじめの頃、私学校も行けなくておばちゃん大変だったよね」

「だけど、少しずつ前を向いていく芽衣が可愛くて愛おしかった。本当に、私芽衣を引き取ってよかったわ」

「おばちゃん……」

 胸がいっぱいで、涙でもうなにも見えないくらいだった。

「だから今日は幸せそうな芽衣を見られて本当に嬉しい。きっと芽衣のお母さんとお父さんもあっちから見てるよ」

 そう言って彼女は窓の外へ視線を移す。
 その先は、青い海が広がっていた。

「うん、私。絶対に幸せになる」

 海に向かって芽衣は誓う。それが、生まれてから今まで育ててくれた両親と目の前の彼女に対する恩返しだ。

「あら大変。芽衣メイクがとれちゃうよ」

 涙を拭く芽衣に従伯母は少し慌ててハンカチを出し、芽衣の涙を拭いた時。

「芽衣!」

 ノックもなく、バーン!と勢いよくドアが開く。驚いてそちらを見ると、燕尾服姿の直哉が立っている。ふたりの前にズカズカとやってきた。

「ああああ、ついにこの日がきてしまった〜!」

 泣きそうな声でそう言って、芽衣の前に崩れ落ちるように膝をついた。

「直くんスーツが汚れるよ……。それ貸衣装なんでしょ?」

「直哉、ここ花嫁の控室よ。勝手に入ってきて」

 従伯母が、咎めるようにそう言った。式の前のひと時をふたりで過ごしていたのに、騒がしく入ってきたからだ。

「親族様って書いてあったでしょ」

「なに言ってんだよ、おばちゃん。俺だよ? 親族みたいなもんじゃんか。バージンロードを一緒に歩くなら、ここで待っててくれって係の人に言われたから来たんだ」

 直哉が口を尖らせて、答えた。

 従伯母がため息をついた。

「本当に、このうるさい兄がいながらよく相手を見つけられたね。バージンロードを一緒に歩くなんて駄々を捏ねて……」

 そう、この後直哉は、芽衣の父親代わりとして式の際バージンロードを一緒に歩くことになっている。ほかでもない彼自身の強い希望だ。

 式場からは最近の結婚式は形式はかなり自由になっているから、両家が納得いく形であればなんでもいいと言われている。

 すでに父を亡くしていて、適切な親族がいない芽衣にとってはありがたいといえばありがたいが、あまり例がないのは確かだ。

「芽衣、晃輝さんは本当に気を悪くされていない?」

「それは、大丈夫だと思うけど……」

「心配性だな、おばちゃんは。俺は新郎本人に了承をとったんだぜ? 今までの芽衣を近くで見てきたのは間違いなく俺だし、俺以外に適任なやつがいないだろう?」

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