エリート海上自衛官の最上愛
 芽衣の思いを彼がいつも受け止めてくれるから。離れている時の寂しささえも、ふたりで共有しているのだという確信がいつも芽衣を強くしてくれた。

 ——そして。

「必ず、芽衣のところへ帰ってくる」

 耳に囁かれる約束が、いつも芽衣の心をしっかりと守ってくれるのだ。

 彼は、どんなことがあっても、たとえ時がかかっても自分のところへ帰ってきてくれたから。

「はい、ここでお待ちしております」

 自分を包む彼の腕にギュッと力が込められた。

 振り返り目を合わせて微笑み合う。

「晃輝さん、大好き」

 これから三カ月は、直接言えなくなるのだ。言える時に言っておきたい。

 晃輝が不意をつかれたように目を開いて、芽衣をギュッと抱きしめ、肩に顔を埋めた。

「あー心配だ……」

 少し不思議なその言葉に芽衣は首を傾げる。

 離れている間のことを心配するのは芽衣の方だ。彼は船上にいるが、芽衣ずっとこの街にいるのだから。

「晃輝さん?」

 呼びかけると、彼は顔を上げる。芽衣の額に自分の額を優しくこつんとあてた。

「芽衣、くれぐれも変に親しく声をかけてくる客には気をつけて。なにかあったらすぐに親父に言って対応してもらうように」

 その言葉に芽衣は目を丸くして、次の瞬間噴き出した。

「そんなこと……まだ心配してるの? うみかぜのお客さんは皆さんマナーがいいって晃輝さんも知ってるじゃない」

「それはわかっている。でもこの間、防大の学生たち声をかけられていたじゃないか」

「あれは、横須賀に来たばかりだから、街の見どころを教えて欲しいって頼まれただけだよ」

 防衛大の学生は自由に外出できるわけではなく時間も限られている。だからこそなるべく効率よく街を回りたいと言っていた。

< 179 / 182 >

この作品をシェア

pagetop