エリート海上自衛官の最上愛
 目元を緩ませてマスターが言う。謙遜しながらも息子の活躍が嬉しいようだ。

「わぁ……海上自衛官一家なのですね」

 イージス艦の副艦長だなんて雲の上の話だと知識のない芽衣でもわかる。

「この前、マスターもすごい人だったってお客さんからお聞きしてびっくりしてたところなのに」

「狭い世界だから俺や親父のことを知っている者もいる。晃輝も期待されているのだろう」

「おふたりを見て育ったから、憧れて入隊されたんでしょうね」

「どうかな……」

 そこでマスターは、少し寂しそうに微笑んだ。

「晃輝が俺にああいう態度を取るのは実は現役時代の俺のせいなんだ」

「マスターの?」

「ああ。芽衣ちゃんには妻は亡くなっていることは話したね? 妻はもともと持病があったんだが、亡くなった時は急でね。ある日急に悪化して家で倒れて入院してそのまま一週間後に。その時俺は海外の合同演習に参加していてね。死に目に会えなかったよ」

 その話に芽衣は言葉を失った。

 彼の口から妻の話が出ることは珍しくなかった。仲のいい夫婦だったのだと温かい気持ちになりながら聞いていたのに、まさかそんな別れ方をしているとは。

「晃輝はその時まだ中学生でね。たったひとりでつらい時を過ごさせてしまった。俺の仕事が特殊なのはもう理解できる歳だったからだろうが、恨み言らしいことはひと言も言わんかった。その代わりそれからはずっとあんな感じだ。罪滅ぼしではないが、あいつと一緒にいられるように俺は退官して、この店をすることにしたんだが、中々溝は埋まらんな」

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