エリート海上自衛官の最上愛
 だから親子にしては素っ気ないやり取りのように思えたのだ。

 突然知ったマスターの悲しい過去に胸の奥がギュッとなった。

「入隊したらさっさと家を出てしまったよ。横須賀基地所属なんだからここからも通えるのに」

 それだけ父親に対する複雑な思いがあるということだろう。それでも。

「航海から帰ってきたら顔を見せに来られるんですね。マスターと同じで優しい方のように思います」

 悲しい思い出に阻まれて頻繁に行き来できないにしても父親が自分のことを思っているのはわかっているのだろう。そもそも本気で父親を恨んでいるとしたら、同じ職業を選ばないような気がする。

「やっぱり芽衣ちゃんはいい子だな」

 マスターがにっこりと笑った。

「あんな無愛想な男をそんな風に言ってくれるなんて。ああ……晃輝にも芽衣ちゃんみたいな優しいお嫁さんがいたらちょっとは愛想よくなるだろうに。だがきっとあいつは結婚せんだろうな。全然そんな気配もないし」

「そうなんですか?」

 芽衣は首を傾げた。それはちょっと意外な気がする。

 背が高く鍛え上げた身体というだけでなく精悍な顔つきの格好いい見た目と、海上自衛官の幹部候補という社会的な立場を考えると、結婚相手には困らないように思えるのに。 

< 19 / 182 >

この作品をシェア

pagetop