エリート海上自衛官の最上愛
「俺と妻の悲しい別れを目の当たりにしているからな。海自はとにかく勤務体制が変則的で場合によってはスケジュールすら家族に言えない場合もある。いつ帰るかもわからない家族を待つ気持ちがわかるからこそ……。いやいや、暗い話を聞かせてしまって悪いね。まあ、さっき言った通りあまり顔を出さんから芽衣ちゃんが気を遣うこともそうないだろう」

 マスターが切り替えるようにそう言って話を締め括った。

 謝られることではないと芽衣は思う。晃輝のマスターに対する態度に気を遣わなくてはならないと煩わしく思ったりもしなかった。
 親を亡くした時の悲しみを忘れられないのは芽衣だって同じだ。

 炒飯を食べ終えた芽衣は食器を厨房へ持っていき布巾を持って戻ってくる。さっきまで晃樹が座っていた場所のカウンターを拭こうとして、手帳が置いてあるのに気がついた。

「マスターこれ、忘れ物じゃないですか?」

「ああ、晃輝のだな。なにをやっとるんだ。仕方ない。取りにくるようにメッセージを入れておくよ」

「よかったら私届けましょうか? 昼休憩の間に街に行くので、マンションのポストに入れておきます」

 芽衣の昼休憩は、午後二時ごろから夜営業がはじまる前の四時半だ。

 買い物がある時はこの時間に坂を降りて繁華街へ行く。確かマスターは晃輝のマンションは繁華街のあたりだと言っていた。

「いいの?」

「はい、ついでですから」

「ありがとう。じゃあ、残りの後片付けは俺がやっておくから、もう出ていいよ。晃輝にはそうメッセージを入れておく」

「お願いします」

 芽衣はそう答えて、エプロンを外した。
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