エリート海上自衛官の最上愛

直哉

「お前夏はいつ北海道に帰るんだ? 俺も帰るから時期を合わせられるなら合わせようぜ。ふたりで帰ってこいっておばちゃんから言われてるし」

 うみかぜの夜営業、午後八時をすぎて客足がピークを越えた店内にて、カウンターで生姜焼き定食を食べるスーツ姿の会社員が芽衣に言う。

 彼はこの店では少し珍しい海上自衛隊ではない常連客だ。

「飛行機のチケットなら取っておくから。マスター、芽衣にも休みをあげてよ」

「ちょっと、直くん勝手に話を進めないで」

 彼の分の水をつぎ足しながら芽衣は彼を睨んだ。
 彼、飯島(いいじま)直(なお)哉(や)は二歳年上の芽衣の幼馴染だ。

 芽衣と同じく故郷の北海道からこちらへ出てきていて、横浜市内のIT企業で営業の仕事をしている。従伯母と彼の両親も親しくて家族ぐるみで付き合っているもはや兄妹のような関係だ。

 芽衣が都内にいた頃は、時々連絡を取り合って帰省する際に会うくらいだったが、横須賀へ来てからはこうしてうみかぜに食べに来るようになり、マスターとも親しくなった。

 それはありがたいことなのだが、まるで芽衣を子供のように扱うのが恥ずかしい。

「いやいや芽衣ちゃん。北海道の親御さんも心配されているだろうし、店は大丈夫だからいつでも休みが欲しい時は言ってくれていいんだよ。本当は俺が行ってご挨拶したいくらいなんだけど、さすがにそれはできんから、代わりに直哉くんによろしく言ってもらわなければ」

「マスターありがとうございます」

 働かせてもらえるだけでもありがたいのに、ここまで言ってもらえるなんて、つくづくここへ来てよかったと思う。

「とりあえず俺の休みが決まったらその日程でチケット取るか」

 強引に結論を出す直哉に、芽衣はストップをかける。

「そんなのダメ。おばちゃんにだって都合があるんだから。直くんとはこうやって会えるけどおばちゃんと予定を合わせなきゃ」

 顔をしかめてそう言うけれど、直哉のこの少し強引なところに、芽衣は随分救われた。

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