エリート海上自衛官の最上愛
 彼とは、両親が亡くなって従伯母に引き取られ従伯母の住む街に引っ越した時に出会ったのだが、その頃の芽衣は今から考えられないほど、塞ぎ込んでいたからだ。

 当時芽衣は小学校三年生、彼は五年生だった。

 両親を亡くした寂しさで無気力になっていた芽衣は、新しい学校に馴染めず休みがち。そんな芽衣を心配して従伯母が、彼の両親に相談したのだ。

 そしたら直哉が朝毎日誘いに来るようになったのだ。ひとりっ子にも関わらず面倒見のいい性格の彼は、学校でも芽衣がなじめるようあっちこっちに連れて行ってくれた。放課後の公園、課外活動……。

 はじめは戸惑い仕方なくついていっていた芽衣だったが、そのうちにいつのまにか地域に馴染んでいったのだ。

 今もこうやって芽衣のことを心配してくれるのはありがたい。

 ただ、小学生の時の気持ちのまま、強引に決められるのはちょっと困る。お互いもういい大人なのに。

「それに直くん、夏季休暇の予定を全部私に合わせて大丈夫なの?」

 確か彼には付き合って半年の恋人がいたはずだ。普段忙しくしてる分、長期の休みはふたりにとって貴重なはずだ。

「大丈夫だよ。俺今フリーだし」

「え? ……彼女と別れたの?」

「うん。どうしてもって言われて付き合ってたんだけど、あんまり会う時間も取れなかったから」

 そう言って直哉は肩をすくめる。

 昔から彼はそういうとこがあった。

 学生時代から、見た目がよく頭の回転も早くて面倒見がいい彼は、いつもリーダー的存在。女の子によく告白されていた。

 大抵は断っているのだが、中にはどうしても諦められないと泣く子もいる。すると優しい気質の彼は放っておけず付き合うことになるのだ。

 今回も押し切られて付き合うことになったのかな?と芽衣は思う。話の流れで彼女がいるのは聞いていたけれど、彼の口から彼女の話が出ることはなかった。

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