エリート海上自衛官の最上愛
「いつか彼女もここに連れてきてくれるのかと、楽しみにしてたのに」

 マスターがにっこりと笑って直哉に言った時、ガラガラと店の扉が開く。

 ドキッとして芽衣がそちらに目をやると、マスターが張りのある声を出した。

「おっ、おかえり!」

「ただいま、マスター」

 入ってきたのは、ふたり組の常連客。

「いらっしゃいませ」

 芽衣も笑顔で声をかける。少し落胆するのを感じながら。心のどこかで待っているあの人ではなかったからだ。

 マンションのエントランスで晃輝と話をしてから今日で三日目。あの日、時間があったらまた行くと言った彼だが、まだ一度もうみかぜに来ていない。

 時間が経つにつれて芽衣は、やはりあれは社交辞令だったのだろうという気持ちになっていた。適当なことを言う人柄のようには思えないけれど、きっと芽衣に誘われて断れなかったのだ。
 
 そんなことを考えながら、客たちの注文を聞いてカウンターへ戻ってくると、厨房へ入っていくマスターを横目に、直哉が低い声で芽衣を呼んだ。

「芽衣、おばちゃん、相当心配してたぞ。うみかぜはいい店だし、マスターもいい人だって言っといたから、それは安心したみたいだけど、やっぱり場所が気になるみたいだ」

 場所とは横須賀が港町だという点だろう。

「そう……私からも大丈夫って言っておいたんだけど」

「お前からのメールじゃ安心できないんだろう。お前頑張りすぎて無理するところがあるから。だいたい俺もまだ完全に納得したわけじゃないからな。こんな、どこにいても海が見える街……本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。こうやって普通に働けてるでしょ」

 直哉が眉を寄せた。

「だけど、そもそもなんでこの店なんだよ。都内でも求人はあるだろ。それこそ横浜市内にだって」

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