エリート海上自衛官の最上愛
「何回も説明したじゃない。うみかぜの雰囲気が私の理想なんだって。こういう店ってありそうでなかなかないんだよ。あっても大抵家族経営だから働けるなんてすごく貴重。場所がどこかなんて贅沢言っていられないよ。心配してもらえるのはありがたいけど、私も大人なんだから、自分の調子くらい自分で管理できるよ」

 芽衣はそう説明するが、直哉も引き下がらなかった。

「お前が、いきなりホテルを辞めたくせに理由も言わないから余計に心配になるんだろ。おばちゃんも理由は聞いてないって言ってたし。誰にも相談しないで頑張りすぎるとこ、あんまりよくない癖だぞ」

 直哉からの小言のような指摘に、芽衣は黙り込んだ。

 それは従伯母からもよく言われることだった。

 困っていることや弱音を人に言えずに抱え込み、つい頑張りすぎてしまう。

 あのチーフからの誘いをおかしいと思いながらどうすることもできなかったのも、ひとりで考えていたからだ。途中で誰かに相談できていれば、最悪の事態になる前にどうにかできたかもしれないのだ。

「……ホテルを辞めたのは、なんとなくだよ。洋食じゃなくて違う分野の調理も学びたいなって思ったの」

 当たり障りのないことを言うと、直哉がため息をついた。

「まあ無理には聞かないけど」

「……ありがとう、直くんが私のこと気にかけてくれてるのには感謝してる」

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