エリート海上自衛官の最上愛
 芽衣は彼にそう言って、ふと、そういえば晃輝にはすでにこの話をしているのだということを思い出す。

 普段の自分からは考えられない行動だ。
 ほとんどはじめて話をする相手に、あらざらいすべての事情を話しただけでなく、泣いてしまうなんて……。

「まあ、おばちゃんにはあまり心配しないようにって俺からも言っとくよ。マスターがいい人でお前が元気なのは間違いないしな。ごちそうさん。俺帰るわ」

 空になった食器に手を合わせて、直哉が立ち上がった。隣の席に置いてある黒いビジネスバックを手に店を出る。芽衣も彼を見送るため、一緒に店の外へ出る。

「明日は休み?」

 顧客の都合で関東一円を飛び回る直哉は土日も関係なく出勤していて、代わりに平日に休みを取ることも珍しくない。同じ県内だとはいえ、自宅から小一時間かかるうみかぜにやってくるのはたいてい休前日の夜だ。

「いや、明日は出勤。おばちゃんから芽衣が心配だってメッセージが来たから、様子を見に来たんだよ」

「そうだったんだ……。ごめんね」

「いや俺も顔を見たかったし」

 そんなやり取りをしていると、横須賀の街の中心部に下りていく坂道を背の高い男性が、こちらへ向かって上ってくるのが目に入る。結構急な坂道だが一切呼吸を乱すことなく軽々と上ってきた人物に、芽衣は思わず大きな声で呼びかける。

「晃輝さん!」

 晃輝が笑みを浮かべた。

「おかえりなさい。来てくださったんですね」

「ただいま、ようやく時間が取れてね。ちょっと遅い時間になってしまったが」

「大丈夫です」

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